ジェイワー

この間幽霊が来て、タイに言った
その子は「ぞむぞむ団」という団に所属していて
「ジェイワー」で
何でも出来ると。

何が出来る、と聞いたら
「なんでも一つ、あなたからとっていくことが
できるよ」

と言った。

どうにもならない子だと思った。

ついてきたので石を投げた。

この間ウズラがタイの机を持って
トイレの前に置いた。

便所くさいから、教室に入ってくるなと言った。

なんであの幽霊は
タイからしか、とっていかないんだろう

タイは思ったけれど、黙って机を持って帰った

タイが虐められるのは
タイがうろこを持っているからで
それ以外に、理由はない

ウズラとサギが、
持ってきたタイの机で
バンガローだと、
火を燃やした

教科書が燃えた


この間タイの教室で
作文の発表会があった

タイはなんだか嬉しくなった
タイの言葉を
聞いてくれるものは
居なかったから

発表会とはいえ
聞いてくれるから

色々考えて
タイは「ぞむぞむ団」のことを
書こうと思った

鉛筆をうろこに引っ掛けて
書いていたら
ウズラが消しゴムのかすを
タイの頭に投げた

それを見た皆が面白がって
消しゴムのかすを
何度も投げた


タイはこらえながら
作文を書いた


この間、
みんなの作文がコンクールに出されたと
先生が言っていた

タイはちょっとどきどきした
ぞむぞむ団はうまくかけたし
と、思ったけど、あわててうちけした

先生は

「ウズラさんの作文が金賞を取りました」

と、言った

ウズラは少し恥ずかしそうに
テレながら拍手を受けた

ダイスキな友達のことを書いたんです
サギのことです

そう言った





夜に焼ける炎は
赤いのか
蒼いのか
解らない

机の上の炎は赤く
薄暗かったけど

こっちの方が
何故か痛い

ベッドにもぐりこんだタイは
いつまでも
いつまでも
ずっとその炎があるのを
知った



気づいたら
ウズラを怨んで
気づいたら
ウズラを憎んで

己のうろこを剥いでいた


タイはまぶたのない目玉で
じいっと夜を見た
海だったので
涙は消えない

自分の中で
ぐるぐる火が
繰り返す

タイは
声のない声で
天に叫んだ

「ジェイワー」

「この感情を、持っていってくれ」




天から真っ暗闇を背負ってジェイワーが来た
赤い目をしてタイを見た
真っ赤な目をして

タイを見た




思うとおりになんて

絶対に

いかない


お前の思うとおりになんて

絶対に

ならない


この世に

正しいことも

間違っていることも

ないんだ



理不尽さと

不平等と

お前が望む世界なんて



一生来ないんだ



タイの胸に
ジェイワーの手がおりて
ぎゅっと中を握った

ぎゅうっと中を握った

ぐうっと痛みが競り上がって
タイはごうっと唸った

ジェイワーが「ほんとうにいいの」って言った

「ほんとうにいいの」って言った


この間、その同窓会が、海であった

ウズラが謝りたいって言っていた、
と、人づてに聞いた

なんだかずっと考えていたけれど
わたし、あの時
ウズラをぶんなぐっときゃよかった
そう言っておいた


タイは手を開いて
あの時削いだ
うろこを見た


痛みも

想いも

生涯消えない



この世界は

自分の思うとおりになど

絶対にならない



タイはうろこを握って
かあさんに
「殴りに行って来ます」
と、言った




未来なんか 誰も知らない
タイが今

幸せなのか
不幸なのかも

誰も知らない



未来なんか

誰も知らない




だから今、
タイは

殴りに行った
2006-09-17 20:36:33