賞状

それは、一見肉でできた球根のようにみえた
少し葉とはなのつぼみのようなものが
さきにでていて
それがきたならしい歯と唇をもち
腐りすえたにおいを
まいていた

そうして小さな声で
ねがいをつぶやいていた

「みんなみんな
ふこうになれ」

――強さに変わる弱さもあれば
優しさにかわる弱さもあって
あの人の弱さは、そのどちらでもなく
卑怯にかわった

……

あの人の目的を
ひとはたくさん、言いました
ペテンをしたいのだ、とか
お金がほしいのだ、とか
よくおもわれたいのだ、とか

あのひとは自らのからだを
ひとつの球根にし
そうして、ご自身は魂となって
お気に入りのマネキンのなかにはいり
その肉でできた球根を
すりつぶして作った幻覚剤で
だいぶ大きな様子をなしていました

うえのひとから
したのひとまで
悪いひとをたどると
どこかであの人に行き着きます
うえのひとから
したのひとまで
悪いひとは、あの人の球根の粉を
―それは今日子、という
まるでひとのような
美しい名前で呼ばれていました
あの人は、美しい名前が好きでした
そのつぎに、嘘が好きでした―
かならず、かじったことがあるのです

あの人の球根にある
毒素がみせる幻は強烈で
ひとつかじれば、ひとは
人でなくなるようです

あの人から逃げてきたひとは
こういいました

彼女がつくりあげたのは
犯罪者を飼育する小屋だ
そこには、
嘘の絵を「かいた」といつわり
口ばかりでかかげる、ぺてんのえかきや
嘘の歌を「うたっている」とする
ぺてんのアイドルや、いろいろな
ペテンがいる


あざむくこと、いつわること
うばうこと
ねたむことを
そこでは、徹底的に
すりこまれるらしい

そうして、人格を破壊されたかれらは
かんがえることをやめ
今日子にあてられて
どんどん、今日子の玩具とかしていく

みつくろわれた「作業」をしながら
―嘘、いつわり演じる、ための、作業―
ここは地獄だとしながら
彼女への不満や苛立ちをつぶやきながら
苦痛の和の中
―それでも、それは和のなかで
いきている

そこは地獄ではない
彼女のために
飼育されているものたちが
うそやあざつき、
ぬすみやねたみ
犯罪、罪をかさねるための
彼女の飼育小屋だ

やがて、みな
後悔と深い恐怖に
無顔―表情がきえるのではない
ひとの顔がきえるのだ―無顔になり
彼女に飼育されつくすれ
「きもち」は
なにかいいしれない
恐怖だけになる

……

私があの人の球根を
てにいれたのは
なんのこともなく、
たぶんに、偶然か、
あるいは、もしかしたら
運命だったのかもしれません

うえのようなことは
あの人の球根が
ながながと
お喋りしていたことです

時折声音をかえて
時折、せきこんで
球根は話していました

そうしてたまにだまりこんでは
ちいさく
呪文のように
「あたしがわるいわけじゃない」とか
「ふこうになれ
みんなみんな
ふこうになれ」とか
つぶやいて
また、喋りはじめるのです

最初は動くおもちゃかしらとおもい
拾い上げましたら
肉のうごめきで、ひどく驚いたものです

私はひとにいわせると
少し鈍く、もうすこし口が悪いと
頭が弱いのだそうです

それでも、その肉のうごめく
球根にみえるものが
音をだしたり、光をだしたり
―驚くことにその球根―
話からするとたぶん、
今日子と呼ばれている球根は
奇妙な映像を口のような穴から
宙にだすのです
―それを見ているうちに
なんといいますか、無性に

「ね、だから
偉い子なのよ、あたしは
だから、かえしてちょうだい
ね、お家に
あのね、あたしのお家じゃないけれど
立派なお家なの
あたし、いつまでもいていいって
いわれているの、あなたならって」

私のてが触れたとたん
そんな風にあせって
お喋りのあいまに
彼女は私にそう、私にいいます

私は彼女をバッグにいれてもちかえりました

家について、
ひとまず
まな板と包丁とを用意し
おなべと油をもちだして
今日子をバッグからとりだして
水で丁寧にあらいました
―なにをするの、なにをするの、と
アカチャン風な声―しかし
奇妙に胸がいらつく声で
今日子は叫びました

そうして、冷たさか恐怖か
震えている今日子の水を
はらってきったら
まな板において
そおっと、
根の方のふくらみにむかって
包丁をさしいれました

……

今日子の解体は
数分もしませんでした
口をひろげ、
膨らみからのきりくちにつなげ
ちょうど、十字架のように
わたしは今日子を開きにしました

今日子のなかは奇妙なもので
ちいさな、いくらのような
黒い濡れた粒が
たくさんついていました

それが、きっと、
毒素をだすもとなのでしょう

そおっと、包丁をいれたのがよかったのか
そのつぶは
ひとつとして傷ついていませんでした

そうして私はその十字架今日子を
崩さないように
ぬるめにゆたった油のなかにいれ
ゆっくり、火を強めました

ぱちぱちと、今日子ははぜました

……


わたしは
今日子を
食べたかったわけでもなく
料理をしているつもりもありませんでした

今日子を解体して
油であげてみたかったとしか
いいようがありません

不思議なことに
油でにこむうちに
今日子はとけるように
消えてしまいました

少し不快な臭いが残りましたが
今日子のすがたはあとかたもなくなり
茶色い油だけになりました

油はやけにすみわたり
また、火を強めているのに
冷え込んでいました

……

それからは少し覚えていません
なにせ、大変な頭痛が始まってしまったのです
チャイムがなってドアを開ければ
白い綿帽子をきたひとがいて
ご協力ありがとうございます、
なにせ現実ですから
存在するひとがほしかった
と、おっしゃいました

それから私の額にてをあて
ああ、やはりとてもお強いけれど
あれの気はつらかったですね、
と、おっしゃって
その手のひらがひんやりして
やけにきもちがいい。と
めをつむり、まためをあけたら
布団の上で
まるで何事もなかったかのように
部屋は片付いていて
ただ、枕元にひとつの羽根と
賞状がありました

そこには感謝状とかかれていました
それが、あなたがいま
あれはなに、と
ご質問された
宇宙警察より、とかかれた
賞状なのです
2014-01-23 21:22:58