つきがゆるゆる広がる夜に
昼間のような明るさのもと
湖にいった
湖には人魚がいて
るびーみたいな赤い目で
きらんきらん、からんからん

鱗を一枚さしだして
「つれて逃げて」と私にいった

つきはゆるんでそろそろ落ちる
この世の終がもうすぐ来るよ


つきがおい
おってくるよ

冷たい水が足にまとわり、熔けていくよ

背負われながら人魚は言った
「かあさん」

あちらこちらにようよう黒く
あやかしのしるし
金の目がひかるよ

人魚はしくしく泣きだした
泣いたはじから熔けてった
「かあさん」

とけないで
とけないで

そらのつきがおっこちて
柔らかなぶどうが次々咲いた

人魚は笑って笑って笑って泣いた
「かあさん」

ぶどうをつぶすと足がむらさき
暗い夜にほのく光る
はしるたんびに紫のしるし

「かあさん」

ばいばい、ばいばい、ばいばい。
(シリーズ: イド )
2005-07-09 00:00:00