親方さま

「また、低級霊といわれてしまって」
罵られて切りつけられた

真っ赤な花が
ひとつ、ふたつ
ふら、ふら、と
咲いては散っていく
また、時がやけにはやい
床をふむたびに
しぎり、しぎりと
おとがする

「しっているか
……は、権力者や富豪ににていてな」

このかたは誰だろう
背中をみながら
低い、唸るような声をききながら
音のなる床をふんで
ゆっくり進むそのひとに
ついていく

「その権力を
富性を
ふるまわれることを
色濃く欲するものが
よく、おとずれる」

彼がふりかえる
目が真っ赤だ
涙のような、さびついた水が
その目から滴り落ちている

「そういうものには
きをつけろ
まわりには
その欲をナメるものばかり
たかっている……」

牙が口からニュッと生えた
そういう欲を食い
いきるものもおるからな
ここにはな
虫のようなものだが……

「かれらは
じっさいの権力者や富豪を
ねぶみするように
わたしたちを
そらんじて値踏みする
それでいて
わかったようなことをいう
……」

じっさいの権力者にも
富豪にもいるだろうな
もみてで、こびながらくる
縁がほしい、関係したい
そうして
わかったようなことをいう……

我々の、本心を
みることもない

人として、
たがい
ことなる
他命として
向きあうこともない

「所詮はそいつ次第」

ぼだ、ぼだ、と
あかいあかいしたたりが
落ちておちて
みずたまりをつくる

「わたしはこんなようだから
また悪霊とか低級霊とか
いわれてしまって」

あれらは
いつも
己の目で見えた
見たことだけで
そらんじる

……

みえないものも
みえないだけで
おなじようですね

そう笑ったら
かれも。ほんとうだ、とわらう
なににあり、どこにあり
なにをしていたって
ひとは、かわりはしない

所詮は、そのひとは、そのひとだ

「さあ、こちらだ」

彼はまた背を向けて歩いていく

「親方さまは
ほしいものがあるのだ
たくさんのものが
親方さまの、ふるまいをもとめ
富をもとめ
力をもとめたが
しばらく、だれも、
親方さまに、あたえるものが
いなかった……」

「なにでしょうか」

「心だ」

目の前の障子が
雷のような音をたてて開いた
2016-12-14 17:41:30