石と暮らしている

楓さんはちかくにすむ蛙の方だ
出された日本酒を
ちびちびのみながら
はるあみとなのる
鳥のかたとはなしてる

ーー文句言いたくなるようなひとをみて
文句こさえている間はあかんよ……
上をみて話せるようにならなきゃ

ーー上をみると
話すことないんです
上のひとはもう、すごいから
口出しできんす

ーーそいたら文句
いえるひと探して
文句いいたいから
言うてるんだら
欲のまんまじゃないの

ーー非難をかんじるって
わりあい、きもちよいところ
ありますから

ーー非難感じるために
相手をさがしたら
あかんでしょ……

お湯にかけたお酒はことことにえている
卵いれて
ゆっくりゆっくり
かきまわして
卵酒をつくる
良い香りがする

ーーあんたは
さいきん
なんか、あったの

蛙の楓さんがきゅうにわたしにいう
少しだけ考えて

ーーとくになにも
かわりなく
ああ、でも

ーーでも

お酒ことこと煮える
混ぜるしゃもじがすこし
とろみをおぼえる

ーー石と暮らしているんです
なんだか、さいきん

ーーいしとぉ?

楓さんの目がたくさんおおきくなった
ちゅ、ちゅ、と
鳥のはるあみさんがわらう
いしと、いしと
いし、はなすの?

ーー話はしません
でも、
そこにいらっしゃる

ついさいきんは
お山のような石、買ってしまって
ほら、あなたがたと似ていて
ただ、そこにいらっしゃる
ただ、そこにいらっしゃって
それで、ともに暮らしている……

ーーう、ふふ

はるあみさんがわらう
なんていう石?

さぁ、旦那さまが買われたので
しらないんです……

ちゅちゅちゅちゅちゅ

はるあみさんは
きゅうに、たのしそうだ

ーー私も家に帰ると
さまざまなもの
内緒だけど
一緒に暮らしているのよ

ーーあたしの池のなかの石も
そういや、いらっしゃるのかもね

蛙さんは目玉を上に向けて
う、う、うん、と
うなった

ーーそいたらゆうなら
電信柱だって
ポストだって
そこにいらっしゃって
共に暮らしていますね

ーーええ

不意にドアがあいて
ただいま、と
私の旦那さまの
とりさんが帰って来た
手に何か袋をぶら下げている

ーー安かったから買ってきたよ

ーーおや、なんだい

ーーおまえこそなんだい
のぞくんじゃない
いや、いいのいおいだね
卵酒かな

ーーええ……

ーーわたしもたべたい

ーーあたしもたべさしてもらお

ーーおまえらこそなんだい
図々しいじゃないか

とりさんは声と裏腹に
笑いながら私の傍らにいらして
ほら、と
袋のなかをみせてくれた

茶色のとげとげのいしが
ごろん、と
はいっていた



少しだけ蛙の楓さんににていた
2016-12-14 17:02:04