雪鬼

お酒を買って帰る道
ま白い光が
びゃんびゃんと通り過ぎて
それがなにか
うるさいようで
みあげたら大きな白いガが
電灯にあつまって
みゃんみゃんいう
そのあかりのした
うっすら光る
紅いぼたんが
いくつも いくつも
咲いていている

ふ、と
うえから
ま白い雪が
すう っと おち
すう、すうすう
道にきえる

みあげたら
雲はなく
妙なことに星空だった

いつの前に
夜になったのだろう、
そう思って
前を見たら
化け物のような顔をした
なにかがいて
それがなまはげだと
気がつくまで
しばらくかかった

 わらっているか

そう 聞かれたから
笑ってはおります
そう いったら

 ないているか

そう 聞かれる

 泣いてもおります

そう いったら

 わるいものを きってあげよう

 そう いわれて

 まわり するどく
 えいや っと と
 舞われた

びっくりして
今一度、それをみたら

 また、つぎのこにいかなきゃならない

 おまえだけではないから

 わるいもの いらぬもの せおうものは

 おおい

 きるのだ おれは

そう げたげた笑って

 ああ そういえば
 鬼神は
 よき在り様から
 わるきありようを
 ひきはがすために
 いるのだった と

 おもい あたる

あ、と
声が出る前に
それは、雪の中を
ものすごいはやさで
だっぽだっぽと
走って行った
豪快な笑いごえ
のぶとい足に
ふとい黒毛が見え
おどろくうちに

 ふ、と
 目が見えた。

 見えなかったもの
 たくさん みえた

きゅうに
たくさんのことを
思い出して
こらえたら
鼻がつんとする

 おさないころに
 わかればよかった
 たくさん わかって
 それがなにか
 胸を締め付ける

 でも 若いころに
 これがわかっても
 きっと 間違えたと
 思う

 だって
 わかっていたけど
 できなかった ことばかり

わかって よかった わかればよかった

 もっと うまく いきれたか

 これからも
 なにもかわらず
 いきづらい

 まちがいばかり せおい
 やりなおしたいとも
 おもえず

 ただ 背中の痛みがふえ
 それでも のばそうと
 それでも
 そらに 背を のばそうと

黒い 黒い さむい 世界
ゆきが ぼつぼつ
ながれ

紅い花に
ふりつもる

 なにがただしい
 なにがまちがい 
 わかるまで わからない

 間違えて 間違えて
 たしかな ただしさなんて
 世界には
 どこにもなくて

 ただ ただ

 続いていく中で
 残るものだけが あって
 それが ただ
 わるいをしたり
 よいをしたり

 なにがよいの基準なんて
 きっと だれにも 決められない
 ただ そのば そのば
 そのとき そのときの

 ただ


 

前を見たら
真黒い景色
ま白い雪の中

鬼の姿は
もう、どこにもなくて
鬼の声だけ
わらっていた


 ふくは うち おには そと
2011-12-18 21:34:17