いたい いたいの

きずあとに
てをおいて
いたいいたいの
とんでけなんて
はずかしいから
布団にもぐって
ただ内緒で
こころのなかで
朝になれば 痛みは消える
いたい いたいの
とんでけ
いたい いたいの
とんでけ



黒い空に桜だけが咲いていて
その下に狐のお面を買いたいだの
泣きながら叫ぶ私がいる
そんな私を
ちらちら見ながら
屋台のカタヌキに
いんちきだなんて
あの人は叫んでいる

―― 何がただしいだとか
何が間違いだとか
いまになってようやく
正しさが、やさしさではなく
ひとりひとり違うこと
間違いなんて、
かたっぽから見た欠片なんだと
気がついたんだ

黒い空に花びらが飛んで
屋台の音は聞こえない
私はお面が欲しい、300円と
嘆いている
あの人はカタヌキが上手くぬけないことに
いらだって
黙っていろよ、そう
叫んでいる

景色がころんで
私が転んで
ああ、空が反転する
たくさん、驚くような
びしりとした響きと衝撃に
なんだかよくわからなくて
あの人が
おい、おお
と、叫びながら駆け寄る
ほら、みろ
おまえ、ちゅういさんまんなんだよ
さんまんってなに
そういいながら
立ち上がって
一瞬痛くないから
怪我なんかしていないと思ったら
足が痛みにびいいんとしびれて
びっくりしたのと、怖いのと
いたい、いたいとないていたら
ほら、なくなよ
うるさいな、なくな
そうしかられる


―― 私たちは
子供のころの方が
不遇のようにおもう


―― あきらめた、なんて
貴方が言ったのは
確か20になるまえで
自分はそうでもなかった
そこそこだった
なんていう
そうだね、って
笑いながら
そういうところが
きらいだった


―― 何べんかケンカして
二度と会わない約束して
約束
いつもなら
かんたんに
どっちかが
やぶるのにね


―― 理想どおりでいてほしかった
したがってくれたら
きっと、良い人生になるよ
おたがい いいあい
押し付け合う 独善だった


泣いていた私
怒っていた貴方

はやく、なきやめと
そればかりで
もっと遊びたいから
もう先に帰れよ
そうさけんだ

風がふいて目を瞑り
もう一度目をあければ
過去はもうなくなって
神社の境内は
がらんとさびれて
空の上の方に
しらじらとした月が浮かんで
カラスなんか鳴いている

いたい いたいの とんでけ
傷跡に手をおいて
優しく呪文を唱えてくれた
あの人は
母でも、父でもなくて
もう思い出せない

その声がやさしくて
やさしいからあまえてないて
何でないているのかさえ
わからなくなった


体の傷はいたいいたい
心の傷はつらいつらい

つらい つらいの とんでけ
つらいのだけ とんでけ
思い出なんか きえやしない
つらい つらいの とんでけ

後悔だけ とんでいけ


―― 何で泣くのなんか知らない
 何で傷つくのかも、わからない
 だれもが、苦しんでいる
 わかっている

―― それでも 嫌いだった好きだった 二度と会わない

ふりかえったら
いつもの街中
ただ、明るい
冬は本当に、寒いと思う


―― おうちにかえろう
2012-01-21 16:28:22