まっぐろい川べり
黒い影のような草花が風にざわめいている
空にはたくさんの雲が流れ
ぐろぐろと渦を巻いて
また先へと流れている

そばに小さな黄色い風船をもった子が居て
その風船に薬局の名前がべっとりとついている

もうすぐ、雨が降る
空を見上げてそういうから
そうだね、お母さんはどこにいる?
早く家に帰りなよ
雨にさらされたら、かぜをひくよ
そういったら
あたしは強い子だから
雨なんざ、気にしないのさ
そういう
笑って、ちゃんと帰りなさいといったら
にかっと笑い返された

小さな子はこにっくたらしく愛しいね

雲がぐろぐろとながれ
真っ黒い渦の中心がゆっくりとけて
うすまったところに金色の月が見える

はやく帰りなよ、
これはほんとうにふるよ
振り返ると、子供どころか
誰もいない
ただ黄色い風船が
ふわふわと浮いている

べっとりと、紅いペンキで
薬局の名前がくっついていて
ちゃんと書かれているのに
それがよくよみとれない

どこかで歌声がする
なんとなく、とおりゃんせの歌ではないかと思い
あわせて歌いはじめる

真っ黒い雲が
月の上にかかり
なにもみえなくなる
暗いな、と思う

前のほうに目を凝らすと、白いものが居て
笑いかけている
顔も見えないのに
笑いかけているのがわかり
なにかを聞かれているのもわかる

うまく聞こえない

雲が流れ
黄色い月がまた空にあらわれ
川べりに赤い花、白い花が
ぼつぼつと咲いているのが見える
目の前にいた白いものはもう見えない
なんだったんだろうと思う

そういえば、月下美人を
このあいだ、はじめてみた

ぽつり、と呟いたら
誰もいないと思っていたのに
隣に小さな子が居て
やっぱり黄色い風船をもって
ええ、げっかびじんってなに? そういう
だから、月の下で何年かに
一度しか咲かない
奇麗な花だよ
そういって
あれをはじめてみたんだ
そうはいっても写真だけどね
だけど、大きな花だった
いつか見に行きたい

小さな子が私の掌の先をきゅっと握る
あなたなにかさびしそうだから
一緒にいてあげるわ

えらそうにいう

おかしくなる
そんなにさびしくないよ
そう言おうとしたら
小さな手のひらに握られた
ゆびさきがあたたかくなって
泣きそうになる
2012-02-03 08:41:08