鵜飼い

明るい花びらのしたに
わけのわからない
柔らかい、ぬめぬめしたものがいて
それがしゃみせんをくれという
それで、さしだしたら
べんべんべん、べんべんべん、と
ならしはじめる

―― リンドウニリ

うまくはないが、まあ、まあ

そのさけびこえを聞き流しながら
舟はすすんで、川をくだる
なまあたかくなりましたね、
酒を飲みながら鵜飼いが言う
そういえば、このうかいは
ずっとさかなをとっていない

蒼くすんだ空に
たしかにしっとりとした
温かな風が吹きすさび
薄い花びらがまいおちる

――なにか、とっていたしましょうか

そういわれるから、いらないと、ことわる
いまはなにも
鵜飼いはうっすらとわらう

――わかっていらっしゃる

にごりましたね、と
言われますから、はい、と
こたえる
たしかに、にごった

――うぬぼれれば地獄

――さあ、きづいただけかもしれないですよ

――なにか、いりますか

またいわれるから首をふって、ことわる
いらない

鵜飼いがためいきをつく
わたしもためいきをつく
明日はどこにいるんだろう

薄明かりのなか
真っ黒い幹に桜の花びらがたくさんついて
なまあたかい風に
ゆんぐりゆんぐりとんで、
みどりこい湖にぴたり、びたりと
すいおちる

―― うん、魚がもどりましたね

鵜飼いがわらい、わたしもわらう

いらない、
いらない、
ほしいもので、ないから
いらない

ほしいのは、ひとつ、ひとつ
ほしいのは、ひとつ

うたいながら、舟はすすむ
2012-02-19 00:25:19