にくまん

あちらのほうは
きっと、海なんだろう
まっくろい中で
小さな光が沢山瞬いて
ゆったりゆったりゆれている
潮の香りって、すごいですね
そういうから
そうね、しめっています
そういう

海辺の水平線が
ごくわずかに
赤くひかっている

真白い砂浜は
足をのせるたびに
ゆっくりしずむ
たまに貝殻があって
ぱりん、ぱりんと
音を立てる

隣でくもがいう
宇宙は膨張してるんだって
ぼうちょうって?
とりがきく
ひろがっている
ふくれているってことです
くもはこたえ
それは、大変ですね
とりがこたえる

しばらくとりは考える
ふくれている宇宙
宇宙は、パンとかいうのと
おなじものなのね

波の音が静かに静かに繰り返す
ふたりのつまさきは
すんなり砂に沈んで
わずかに、重い

うちゅうはふくれて何がしたいの?
とりがきいて
くもはすこし悩んでから
うちゅうにも、考えがあるのでしょう
そう、答える

パンはふくれて大きくなって
食べられたいのでしょう
うちゅうも
きっと誰かに
食べられたいのかもしれない

ああ、そういえば
先ほどコレをひろいました
蜘蛛がかがんで
砂浜から100円をだす
しろい、銀色のお金

さむいから
これでにくまんでも食べませんか
蜘蛛がたずねる
そうですね、良い案ですね
鳥がうれしそうにこたえる

では、買いに行きましょう
そういって
ぱしんと、蜘蛛が普通の人に化けて
みえますか、と聞く
鳥はうなづいてこたえる
良い男にみえます

蜘蛛はひとつ微笑んで
わきの方に7の光るおみせがあったから
そこで、買ってきます
背を向けて走り始める

海はざざん、ざざんと
音を立ててゆりかえす
鳥はさきのほうをみながら
ああ、寒いですね、とつぶやく
はあ、と
ため息をついて
かえたかしら、と
思い悩む
たまに値上がりして、あの玉だとかえないことがある

少々して蜘蛛がかえってくる
肉まんの中身をわりながら
ああ、という

これは、あんまんですね
黒いあんこをのぞかせて
パンの中から沢山
あたたかな白い湯気がたちのぼる

お店の人がいれて
間違えたらしい、
それでも蜘蛛は笑い
鳥も、笑う
ちちち
ちちち

分けて食べると
あたたかく、あまく
中身がひどくあついので
あちあちいいながら
気をつけて食べた

あまいですね、
そういうと
ああ、あまいですね
そういわれる

ざざん、ざざんと
海はくりかえしくりかえし
ゆれている
2012-02-26 17:06:27