蜘蛛

少しうすい霧が立ち込めている
みずみずしい緑色の葉の上に
真っ白い蜘蛛がいて
霧越しの森を見ている

蜘蛛の巣はたくさん水滴がついて
それが真珠のようにひかり
ふるえている
蜘蛛がぽつっと
ためいきをつく
おもえばわたしのような生き物は
とんできてくれないと
こまるのよ食べられないものね
そういうと
その下に真っ白い糸で
ぎゅうぎゅうにまかれた蛾がくつくつと笑う
生まれかがらのとらっぱー
とらっぱ?
なあにそれ
蜘蛛がたずねると蛾は眠そうにしながらもこたえる
ワナってこと
そう……
蜘蛛はしばらく考える
不思議なきもちが心にわきあがる
この蛾がいなければ
わたしは生きられない
愛しさのような
まるでひとつのような
あたたかなふるえ

あちらで大きなニンゲンが
ひとつめがひどく光る
骨ばかりのふしぎな馬にのって
なにかをさけびながら
とおりすぎる

あの生き物は
何枚も皮があるのよ
おなじなのに
おもてがちがうの
なきごえが
きたないときと
あまりにきれいで
泣きそうな時がある
奇妙ないきもの

蜘蛛が言うと
蛾は、もう寝てしまったらしい
なんの返事もない
見上げたら
白く輝く月がのぼっている

この蛾とわたしは
おなじだわ
蜘蛛はおもう
みんな
ひとつなんだわ

しばらくお月さまをみてから
クスッと笑う

わたしたちは
たがい
おなじものとして
生を
えがいている

月明かりのした
水滴は白銀にひかり
蜘蛛の巣はおもくゆがみながら
風にゆれている
2012-02-27 21:04:45