ふなべりで
話などできない人と
ふたりきりになった

その人はどこか異国から来たらしい
言葉はつうじない
その人は英語で
ワタシは日本語
どちらも、互いの言葉がわからない

ただ、船の中
ふたりとも話しが出来る人がいないから
はぶれ者どうし、ともにいるようになった

いたきれはぶうぶうとゆれ続け
空にはちいさくて白い
砂粒のような星が
ちかりちかりと満ちている

ゆっくりゆれ、
音を立てる
真黒い波の上
影だけの鳥が
飛んでいく

きゃあお
きゃあおと
声のする

彼が、となりで
てぶりみぶりに
ゆうはんは、おいしかったか? と
聞いてくる

それで、
口元に指を丸くしてにっこり笑う

―― とてもおいしかった。


―― あのさ、
ワタシこのごろ
私なんか、と
嘆くことが
なくなってきたんだよねぇ

どうせ通じないから
いいたいことを
ぽつりといったら
彼は片言で

―― すっぱいですねぇ

そう、こたえる

すっぱい……

―― あなたはなんで旅をしているの

聞いたら、彼は
ああ、梅干って、おいしいですねぇ
と、いう

お互い、すこしずつ
話す言葉が分かってきたのに
やっぱり、まったく
通じない

―― どこからきたの

ハネムーンですね
あちらのホテルに
妻だけとまっています

―― どこへいくの

飛行機で帰るんですよ
ハネムーンのホテルに
いちばんはやいのは
このシップでね

―― ……

……何をしにいくんですか

急に、そう聞かれる
たぶん、ちがうことが
聞きたいんだろう

…… なにをしにいくんですか

―― ……さぁ

…… なにができるんですか

―― ……なにもできない

…… なにをするんですか

―― ……

空の星のすみっこに
月明かり
星はまたたくのに
月は瞬かない
そういえば、月の明かりは
太陽のひかり

まったく、わからないけれど
地球のうらにある太陽が
月まで照らしているんだな

―― ……
悔いて 悔いて
笑い 笑い
きらい きらい

私なんか、と
嘆くことが
ここのところ
なくなってきた

迷いも、苦しみもするが
わからないわけでは
なくなってきた

むかしは いつも
人を見ていた

人を見て ひとをみて
わたしなんかと
嘆いていた


―― ……
悔いて 悔いて
笑い 笑い
きらい きらい

うたいはじめると
あわせようとしてくれたのか
何か不思議な歌を
隣でハモッてくれる

そういえば
きらきら星の歌は
英語でも日本語でも
あったっけ
そう思い
きらきら星を
うたいはじめる

彼もわかってくれたのか
一緒に、うたいはじめる

ついんくるついんくる しゃいんにんぐ すたー……
2012-02-29 19:46:06