あたたかな
こえにのって
なみだがながれる
あたたかな
やわらかな
はなにのって
なみだがながれる

曇りの日の花は
ひみつですが
神様のおちからを
ほんのわずかに
ふくんでいます
なぜなら
あめふるまえ
夜とも違うひかり淡い日
確かに、花は
ほんのりと、光っていからです
それをみるたびに
ああ、花はいきているのだ、と
彼はおもいます
彼はみっともないと
おもっていたから
あまりにきれいな花をみると
泣きそうになることや
宵闇にひかるお月さまを
いつまでもみていたいと
おもうことは
誰にも秘密にしていました

彼の名前は内島といい
友達の名はなさごといいます

なさご、は
ひょんなところでしりあった人で
ぶあつい眼鏡のそこの
みょうに切れ長い目を
さらさらながして
周囲をゆだんなく
見るようなひとでした

どうも、かたい、
みょうにぎこちない
しかしたがいに
不思議とひかれていることを
なさごも、彼も
わかっていて
ぎしぎしと音のするような
気の遣いあうような
そんな風にしか、話せないにもかかわらず
しきりと交流をかさねてきました

今日こそは、
楽しい話をしようと
いきごんできたのに
やはり
あまりに緊張し、また
たがい、よい話題をさがしあいながら
たがい、考えすぎて
なにひとつ、うまくいかず
石のような時間がながれました

あんまり、辛かったのでしょうか
ふいに、なさごがうたいだしてしまいました

やわらかな、いとしみのふかい
音の低いうたで
歌詞もなく
初めて聞くうたです

うたうなさごに
びっくりしてしまった彼は
まじまじとなさごを見てしまい
そうしたら
歌いやめることが出来なくなったのか
なさごは顔を真っ赤にしてうつむきながらも
頑張ってうたいつづけてしまい
話しかけるわけにもいかず
彼はききつづけ
止める機会を完全にのがしてしまった
なさごはまる一駅分
歌詞のない歌を
歌い続けてしまいました

夜はやわらかなつめたい風が吹き
秋がすぎさるまぎわのようでした
ふと、みあげると
美しい月が
空の真ん中にしずかによこたわり
なさごの歌は
流れ続けています
かれは、おもわず
おれはこういうのがすきだ、と
伝えました
なさごは歌いやめ、彼をみました
その目はすこし涙ぐんでいます
彼はぎこちなく、申し訳ない気持ちになりながら
上をさししめしましたら
なさごも月に気づきました

うた、よかった

なさごはなんにもこたえません
彼はなさごに
むりに会話をしなくても
いいのではないかと
伝えようかどうか
明るい月をみながら思案しています

やはり、いつまでも
見続けていたいと、おもえたのです