空から雪がふっている
隣の料理教室はおおづめをむかえたらしい
やわらかく作れたか
スポンジケーキを
すこしゆびでおしてみてね
先生らしきふとった女性が叫びながら
銀色の生クリームのおわんをとっている

なんでもいいんです
おいしければ
おいしくたべてほしい
たべて、笑顔になっちまうぐらいね
そういいながら
お嬢様方のまえで
果実いりスポンジケーキに
とろっとした生クリームを
たこたことぬりはじめる
みんな真剣なまなざしでみつめている

音の少ない日だとおもう
読みかけの本をとじて
目をしばたいて
カフェのてんいんに
すいません、コーヒーおかわり、と
つたえた

マスター、コーヒー……

まだ若々しい店員が声を張り上げる
どこかで誰かが歌っているらしい
妙なキンカン音と深い音色のうた
異国の歌だろうか

……てんしりあひを
よんりりたいを……

雪はふりつづけ
窓ガラスがくもりが深くなる

料理教室の先生が
ひとくちたべさせ
笑顔にさせる!
んハハハとわらいながら
さけんでいる

すいません、と声をかけられ
みあげれば、茶色にだぶついたコートに
真緑のかえる……
コートをきたかえるがたっていた
古めかしいコート
シルクハット
ご丁寧に、木の杖までもっている

ここいらに、仔犬、いませんでしたかね
……仔犬、ですか
可愛らしい仔犬……
わたしの犬なんです
あの日、忘れてしまって……
一瞬だって、忘れてしまって
はぐれてしまいました

わたしのいぬ
きっと私を探しているでしょう

かえるの目から
ふたつぶ、なみだがおちる

……やはりここにも
来ていないようですね
しかたない、コーヒーをもらったら
また、旅にでよう

そうしてかえるは
ぐえこぐえこと
二回ないてから
レジに向かった
もちかえり、コーヒーひとつ

きがついたら
料理教室はもう終わったらしい
誰もいない教室
こころなし明かりがうすれた室内で
ふとった先生が座り込んでいる
その目の前に美味しそうな桃のケーキ

暗く、とおいから
先生の顔は見えない
なぜか、祈っているのだろうか、と
感じた


ふいに、わん、と
音がして、下を向いたら
しっぽをけんめいにふる
ちいさな仔犬
茶色の毛並みの仔犬がいて
また、わん、とないた