たまに、ふ、とおもいだす
もう顔も思い出せない人
むかしむかしのひと
先生だったかもしれない

「おまえは、おかちめんこで
ぶきようだから
苦労するだろうなぁ……」

たとえば、刺繍の針がちくっと
刺さったひょうしに
たとえば、包丁が
ほんのわずか、たゆんだひょうしに
ふ、と
よこぎる

おまえは、
おかちめんこで
ぶきようだから……

就職に失敗して
結婚に失敗して
なんだか
やぶれかぶれなまま
お弁当屋ひらいて
儲かりもせず
かといって、やめるほど損ないもしない
隣に人はいない
にぎやかな町並みに
お弁当うりつくして
帰れば畳の古ぼけた寒い部屋

ああ、やっぱり
わたしは、おかちめんこで
ぶきようだから……
そう、いつも、ふ、と
おもいだす

だから、失敗してしまうんだ

今日もそんな風で
明日の仕込みおわらせて
ふ、と
わたしは、おかちめんこで
ぶきようだからなぁーなんて
思い返していたら
金色に妙にひかる
ちいさなものが
いつからいたのか
隣にいて、そうでもないよ、と
つぶやいた

わたしも妙なもので
不思議とも思わず
そう、かな、と
つぶやきかえしたら
ねんねしなよ
もう、忘れていいよ……
そう、いわれた

目をとじたら
たくさん
たくさん
おもいだした
小学校……先生……母ちゃん
あたたかなひだまり
きのぼり
桜のき
百日紅、てつぼうの臭い
お弁当……
たくさんの
たくさんの思いでのなか
ゆっくり眠りは深くなり
なみだが、しらずに
たた、ん
たた、ん、と
ながれて
おちる

あー気づかないうちに
縛られてるもんだねえ
わたしねえ、わたしねえ、
逃げてたのかなあ
うまくいかない逃げ口に
ことばをおもいだしていた
ああ、それでも
ずっと
誰かに、
そう、いわれたかったんだ
わたしねえ、

うん、おかちめんこじゃないよ
もう、忘れていいよ