人の胸には
ひとりひとり
空があって
ひとりひとり
空の景色が
ことなる

どんな色の空で
どんな色の雲なのだろう

――思い立って冷蔵庫をきれいにしようと
雑巾もってまわりをふいて
めぐって裏にまわったら
真茶色のねばねばした透明な液体のなかに
たくさんの小さな赤いくもがたかっていた
鳥肌がたって
しばらく目をはなせずにいたら
なかの、うようよとしながら
卵らしき透明なちいさな粟粒をかかえたくもがひとつ、
あなた、これ
なんだとおもいます?
冷蔵庫のうら?
ちがうんですよ
あるひとの、胸の中なんです
あれはなんだってことになってね
少々あなたの冷蔵庫に
わたしたち、表現してみたんです
いわば、アーティスト、ですね

すこし、自嘲するような
――まったくのアーティストのように――くもがいう

ひとをねたんでそねんで
のろいながら
ほめるようなひとでね

褒め称えながら
優しいことばを吐きながら
妬んで嫉んで
のろいながら
呪うことに酔うようなやつでね

表面、好い人でね
ことばたくみに
呪う、のろう
なにより、いやらしいのは
呪う自分に
酔うんですね

そいつの胸ん中
こんなかんじなんでさ


――あんたさんも
気を付けなさいな――

そういって、蜘蛛はわらい
わたしは、瞬きした
次のとき、くもも茶の粘りも
きえていた

それ以来
表面よいひとで
人、呪う人、みるたび
みかけるたび
この人の胸のなかも
あんなんなのかと
おもいだす

茶色の粘りに赤いくも……

冷蔵庫あけるみたいに
むねあけて
たしかめたくなる

蜘蛛のいろ