空には満天の星がながれ
明るい月がふかふかとういている
汚れた部屋をふたりでかたづけながら
せきみやさんの
小さく咳き込む音を
きいていた

こんなときなのに
なぜか、せきみやさんが
名字にあうのように
咳をしがちなこと、
咳をしていることが
おかしいようにおもえる

こんなとき……お金がもうからなくて
ヒステリーをおこした社長の
おおあばれの
やつあたりの、あとしまつのとき

こんなときは
考えないにかぎる
はへんをあつめる
液体をぬぐう
はへんをあつめる
怪我をしないように

たかいなんていって
おおあばれのたんびに
こわしてさあ、
やれやれ、と
奥さんがながいため息をつく
ごめんね、せきちゃん、
さなかちゃん、
あとでのもうね、
さんにんでね

お金がないから
いつもの安いいざかやで
一時間ぐらいだろうかな
それでも
夕飯代がういたことを
すこし、嬉しく思う

「わたし、昨日失恋したんですよね」
せきみやさんが、
ふ、と
つぶやいた

それから
汚れた手のひらを
雑巾でぬぐって
こほこほ、と
またちいさく
せきをした


へぇ!
おどろいたね
恋愛していたの?
社長がいう
失恋といえば
あたしのともだち
恋愛もしてなさそうな
たにんの肌依存症でね
だから、失恋もしないの
プライドが傷つく方が
いやなんだろうね
きれいなわかればかりよ

よくいってたよ
恋愛もしてなさそうな顔して
愛してなさそうな

愛のない顔して
ああ、やだやだ
愛を乞うひとっていや
本当に、おとこってって

ねぇ、あたしはね
愛せないやつは
愛されなくて
当然な気がするんだよ
あたし、もうすぐ
あいつと、わかれるよ
わかれてみせるからね

そう、いった

目が鷹の目のように
冷静で、ピカピカしてる

あ、わたし
わかりました、と
せきみやさん
わたし、
愛乞いしていたんだ

……あいして
……あいして

あいして

あい、乞い
あい、乞い

こいですら、ないの
乞いなのね

あいしてなかったな

いつか、
愛をおぼえる日が
きますでしょうか
大切にされること
愛されることより
愛するをおぼえる日が
きますでしょうか

汚れた雑巾をあらいながら
たんたんと
なみだをながしながら
せきみやさんは、
こほこほと
せきこみながら
つぶやいた