いつか、おまえに
おしえたいはなし



まだ明日、残る日
夜のおとが
なんたかすこし、さびしくて
錆び付いた自転車をころがした

川原は月明かりにあやうく
やさしげな金色のはなばなが
春の夜風に
ふわふわゆれている

誰もいないのをたしかめて
家からもちだした
銀色のハーモニカ
下手ながら、すきだから
風にならって、ならしはじめる

ちーふーちーふー

しばらくしてから、
ふいに、
ハーモニカにあわせたように
誰かが歌い始めた


……やるせなき
おもいをしたため
血を噛むものの
まもののてのひら
ひとひとの、
こころかなしき
命綱

ことばさえ
こころかなしき
不自由を
あじわいながら
したためた
おもいおもいは
不自由ならざる
こころにあるは
憤怒なり

今宵今宵は綱きれて
命懸けの自由なり

…………
おどろいて
すこし、したけれど、
でも、たいそううれしくて
また、ふきならしはじめる

ちーふーちーふー
ちーふー、ちーふー



♪……危なきものの手にあるは
支配快楽
人の首綱

やるせなき
言葉意思意志うばわれて
血のなみだみち
悔しき思いにおぼれたものども

いまいまの
綱ぎりえんぎり
ひとくらう
まものの虚ろにやいばをはなて
まものの虚ろに
殺意を放て……

呪いうた、だろうか
されども勇ましく
のろいよりも
祈りにおもえた

じゅごんか


……♪……
長き夜
命の綱をにぎられて
腹にしたたり
みちたるぞうお
恐ろしき
あぶなきものの
まものより
まものにあえいだ
ひとの怒怒(ぬど)

いまこそ朝はちかくなり
まもののおびえに
かみつく憤怒
怒り食らえと
わがみをもやせ
怒り食らえと
命を愛せ


……いのちをあいせ

ちーふーちーふー

ハーモニカは
ハーモニーを
かなでるためでしたっけ
それは、僕ではない人と
音をかさねることですね

ちーふー、ちーふー

ふとみあげると
やわらかな藍空に
一羽の黒いとりが
さわさわととんでいく
風にのり、かぜをゆらし
翼をゆっくりあわいでく

まるで恐竜のようにおおきいな、とおもう

ちーふーちーふー
ちーふーちーふー……

じゅごんか、は
やんで、誰だったのだろう
あとは僕のハーモニカだけ
しずかな川の音とともに
夜にながれる


ちーふーちーふー
ちーふーちーふー……