微かな臭いが流れている

砂の上に一足おいて
男は鼻をならした
雨とはことなる
ああ、ここらへんはきっと
砂の、においが
濃いんだろうな……

石には臭いがあることを
この間知った
花にもかおりがある
木にも、土にも
ひとにもある

太陽は高い高い上のほうから
白い光をただ下にみたすように
おとしている

ゆくえしれずになった
靴の片方をさがしながら
この砂漠を
もう何年だろう
さまよっている

……

こつん、と
革靴のさきに
またひとつ
なにかがぶつかる

そういえば
さがしつづけたせいか
死ぬことを忘れていたらしい
うえることも
かわくこともなく
ただ、さがしている

つぶやきながら
下を見ると
銀色に光る水晶だった

最初は
町にかえったらうれるだろうと
そういう気持ちから
こんなものを、ひろっては
ポケットにしまいこんでいた

手に拾い上げ
ポケットにひとついれていた石を
もうひとつの手にとりあげて
見比べる

どちらもよさそうにみえるが

しばらく考えて
今日ぶつかった水晶を
砂に戻す

ごめんな

何となく謝ってまたさきにすすむ

ポケットのなかのいしは
黒く尖りきって冷たい
最初は、どれのほうが
価値が高いか
かんがえて、ねぶみして
おもくなるほど
つっこんでいた

おもいから
もう、ひとつしかもたない

記念ていどの気持ちだ

……

砂漠風がながれていく
龍のように砂がまいあがり
またくずれおちる

ざ、ざ、ざ

……

靴のかたほう
なくしたものを
さがしつづけて
なんねんになるかさえ
もうおぼつかない
そんなに大切なものだったか

それでも、ここまで探して
いまさら、みつからないまま
かえれない

……

夜になると宝石をぶちまけたような
星空がひろがる

あれは、運河
あれは、しろてぼし
勝手につけた名前を
つらつらつぶやいて
昨日見た星を
また探す

石を取り出して月明かりにかざしてみる

黒い石のなかに
ちいさな赤い光が
明かりのかくどで
ひかり、ひかり

……

男はすこし笑う

わるくない

わるくない……