サグスは悪人だったし
自分を善人とは思っていなかった

それでも
どこかで、
環境がわるいから、
こうなっていて、
悪人ではない、という
きもちはあった

サグスは
わかりにくい分厚い参考書を
たくさん読んで
それを分かりやすくして
もうけた

サグスはインターネットが好きだった
無料で公開されている
論文や、規定書

調べなければ
知らないような
それでいて
この世の仕組みのひとつになっている
それをかかれた書物は
無料でたくさんある
ただ、難解だったり
長文だったり
外国語だったりする
それでも、知りたければ
頑張って、読めばわかる……

いつもサグスはいう
「馬鹿はいいひとだ」
かれはオキャクをバカにはしない

ただ、自分ですることのない
手をぬきたがるものとして
こころのそこに
苛立ちと怒りがあった

サグスは学校にいけなかった
両親がお金をだしてくれなかったから
だからインターネットが好きだった
頑張れば、知ることができたから

彼にとってみれば
おきゃくは
手を抜いて知りたがるもので
だまっていても
勉強する環境をあたえてくれるまわりが
甘やかしてきたから
怠けたがるようにしか
見えなかった

……

ある日いつものように
長文の書を読み込み
その一筋をぬきとって
できるかぎり、簡易にしながら
スクールがひらくのをまっていたら
ひとりのひとが
サグスの横にたっていた

かれは急にはなしかけた
「あたまのなかが、
空っぽだ」
そうして、いきなり
サグスのあたまを手でつかむと
ねじを、ひとつ、ふたつ、まわして
ぱか、っとあけた

不思議なことに
サグスはそれを奇妙にも
嫌悪にも思わなかった
サグスは思っていた
どこか、こころのなかで

甘やかされてきた
怠惰なものから
搾取することは
罰だ、と……

無料で公開されている書から
たんに抜き取った話で
何百万、搾取する
サグスは、搾取と思っていた
サグスはでも、悪いことというより
怠けるものにたいする
罰のように、とらえていたんだが……

サグスのあたまを片手であけながら
となりのひとは
なにかをいれ、
なにかを、きゅぽんきゅぽんと
すいとりはじめた

その間に
「他人を知らなすぎる」とか
「このとしで
他人と関係したことが
ないんだな……」とか
つぶやきつづける

サグスは妙な気持ちになって
ぽた、ぽた、と
涙がおちた

きゅぽん、と
おとをたてて
頭がしまった

ふ、と
前を向いたら
窓ガラス越しに
夕陽がみえた

町を歩く人たちの声
どこからか響く人たちの声
サグスの鼻に
懐かしいのに
みょうに、かいだことのない
いや、無視し続けてきた
匂いが、した

……

それからサグスがどうなったか
誰もしらない
あれがなんだったのか
きっと、サグスにさえ
わからない
いつものように
スクールにきた
ふつうの人たちは
スクールがいつまでたっても
開かないので
こんわくしながら話し合っていた

サグスは煙のように消えてしまった
スクールは二度とあかなかった
詐欺だとか、なんだとか
すこしの騒動があって
すぐに、ニュースの合間に
しずんでいった

そんな最中に
気のあいそうなひとと
喫茶店で
ふつうの話をしながら
ともだちになっていったひとたちもいる

かれらは、サグスのことなんて
すぐに、わすれていった
もともと、サグスのスクールは
日常にも現実にも
いらないものだったから

ーーよく考えれば全部いらないんだよ

ーー幸せも人生も
そんなものは
よく考えればいいだけなんだよ

わすれていった彼らをみながら
どこかで、だれかが
はなしていた