「なにかそんな感じがする」
頭のなかで
考えあぐねていた夢子は
思い浮かんだことに、薄ら笑いをうかべた
そうして携帯をとりだして
メールをうちはじめた
「~~は、~~ということでしょう
きをつけたほうがいいですよ、まる……と」

ぷち、っとおすと
メールが送信される

すぐにチャイムがなった
メールが受信されたのだ

「はやいな、返信……」
つぶやきながら
夢子は携帯をあける

『なぜ、憶測でものをつげるの?
現実をたしかめもせず
そんな気がする、だけで
メールしてきてない?』

ぱち、と、
携帯の画面をとじる

「……だれだ、これ」

夢子の手がひとつふるえた

また、チャイムがなる

ぱち、と画面をあける
新着メールが一通あります
無機質な案内文が画面のなかを流れている

「……」

夢子はえい、と、
気合いをいれて
メールをひらいた

『なぜ、憶測でものをかたるの?
現実をたしかめもせず
そんな気がするだけで
メールしてきてない?』

ごくり、と
喉がなる

間をおかずまたチャイムがなる
メールの受信をしらせる
アニメーションが流れる
ついボタンをおしてメールをひらくと
写真が添付されている
夢子がうつっていた
薄ら笑いをしている
あきらかに、さきほどの夢子だ

「……」

夢子はつめたい錯乱が
あたまのうしろから
わきあがるのをかんじた

「なぜ、憶測でものをかたるの?
見えないことだからって
ここにも現実はあるのに?
なぜ、現実をたしめずに
あなた、きもちよさだけで
ものをかたるのは
なぜ?」

携帯から声がながれでた

夢子は携帯を投げていた
がつっと、桃色の携帯が
壁に当たって、かけておちる

ぜぇ、ぜぇ、と
音がする
ーー私の呼吸の音だ
夢子は思う
ーーなんなんだ、これ
となりに、なにかがいて
ぜぇ、ぜぇ、
ぜぇ、ぜぇ、
夢子の呼吸にあわせて
ないている
夢子は目を力のかぎりひらいて
見たくもないそれを見た

それは真っ黒で
ゆだぬだ奇妙にうごめいて
夢子に、わらいかけた

「妄想と、現実の
区別がつかないものを
狂気とよぶようです」
しわがれた声が
その口からながれでる

ーーここにも 現実がある

それから夢子に
口をひらいて、牙をみせた
目がそらせなくなった
牙はよごれ、きいろで
奇妙な臭いをはなつ
ばぐ、っと
それが、とじた
夢子の上半身をくわえこんで

……

夢子は薄ぐらい空間にいた
様々な囁きが
うえから、したから
横切り消えていく

『なんかそんな感じする』

夢子の声だ
妙に、笑っているのか
嗤っているのか
わからない、声

『わたしのかんはあたるんだ……』

夢子の顔がなんこも
なんこも、くらいなかにうきでる

笑っているのか
なぜ
そんな顔になるのか
口のはしだけが
ゆがんでいる

『なんだかそんな感じがする ん だ』

夢子は絶叫したが
声にはならなかった

……

そのあと夢子は携帯をかえ
あいかわらず、メールをだしたり
blogをかいたりしている
和食や洋食、食べ物の記録だ

知り合いに出すメールはグッと減り
要件だけにかわっていった

夢子の目は妙に暗くなった
二度と、『そんな感じがすること』は
伝えなくなった……