赤い実

♪~♪~ きっとさ きっとさ 砂落ちる 砂山の上 歩く蟻
♪~♪~ いつ崩れるかわからない そんな刹那を積み重ね
♪~ 砂で作った城みあげ おれがすごいや おまえがいい
♪~ きっとさ きっとさ 砂落ちる 砂山の上 歩く蟻
♪~♪~ ただひたすらに 生きる蟻

赤い実のものがたりを はじめるよ


昔々あるところに大きな山の小さなふもと
緑深くかこまれた洞窟に
赤い実をひとつつけた大きな木が
にょきりとはえていたんだとさ

ある日赤い実は木のじいさまに「おらあ そといきてえ」といっていみた

「風にふかれて雨にふかれて
おめぇさまんとこ
居るのもなんだか
しんどくなってきただよ」

そいたら木のじいさま
何も答えない
むっつり黙って
月見上げていた

赤い実ちょっと怒ってさ

「そんな無視することねえ
おまえがそんなだら
おらでてくだ」

そういってさ
実をさんべんゆらして木から落ちた
木落ちた先転がって川におちた
赤い実はさ、川に流れていったよ

つきは満月夜は暗い
ただほうほうと梟ないて
どこかで誰かがくしゃみした
赤い実は怒っていたよ

木のじぃさまのためにさ おらずっとついていただに どうしてさよならさえイワネェだ

そう思っていたらさ、
急に赤い実は泣けてきた

わんわんわんわん泣いていたらさ
急に狐が来てさ
川下る赤い実見てさ

「おまえ、どうした
何で泣いてるか」なんて聞くのさ

「キイとくれしゃ
じさまと長年連れ添って
もう何年だかわかりゃしねえ
それなのに私がはなれるいうたら
ひきとめもしねえ
さよならもねえ
こんなひでえ話があるか」
赤い実は泣きわめいていったらさ
狐がくすくす笑ったよ

「おめぇはひとりだちするだけだ
じいさまがなんも言わなかったのは
なんもいえなかっただけだろ
さ、いきてぇところにいけばいい
たどり着きたいところは
おめぇが決めればいい」
そんなふうにいうんだよ

それでさ、狐がついてきたけどさ
赤い実はなにかよくわからなかったけど、
なんだか涙もとまってさ、
川どんぶらと流れていって、
ふたつひとつ山越したかなというところで
岸にみずから止まったのさ

「おらここにする」
いうたらさ
狐笑って「おおそれがいい」そんなこといってさ
それで走っていった

なんだ、変な狐だな、と思ったけどさ
とにかくもうひとりだちしたのだし
ここにしたのだし
とりあえず空を見上げたさ
「ひとりだちってなんだべな」

空はもう
夜くれて
朝来て 昼きて
夕暮れでさ
ああ、空はどこに行っても空だなぁ
そんな風に思ってさ

たまにじいさま思い出しながら赤い実は空ばかり見ていた
そしたらいつか赤い実から芽がはえてさ
しばらくしたら木になった

木になった赤い実はさ
空に向かってううんと手を広げたらさ
ふと気がついたら向こうにじいさまがいる

じいさまに気づいた赤い実の木はさ
「おおお」といってみたよ
そしたらじいさまも無言で「うん」とうなづいた

「ああ そうか
いわなかったんじゃねえ
いえなかったんだな」

そう赤い実も気がついたよ
もう木になっちまったけどさ

その山のふもと
ふたつ対になって、木はえている
夜風がいいときはふたりで話しているらしい
もうすぐ、赤い実だったこっち木にも、赤い実がつく

おしまい
2011-09-02 20:22:37