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アパート
なにが
敵かといえば
うぬぼれという
恋文をもらったのは
17ぐらいの時で
あまり深く
考えもしないで
付き合った
:
―― こけがはえていますね
―― 世辞を言うなよ
―― せじ?
メゾン荘とよばれる白いアパートの一部屋に
椎はすんでいて
先程メールで遊びに来ないかと誘われた
二年ほど住んでいるらしいその部屋は
あちこちいたんで
フローリングがすこしたわんでいる
嫌な話だけど、春になるとさ
みずまわりから腐った臭いが
あがってくるんだ、下水のさ
そういう
ハーモニカが転がっていたから
聞くのか、と聞いたら
吹くんだよ、きくんじゃないよ
そう、わらった
ついで
椎は、なにかからからいう
クッキーの絵がかかれた
丸いかんかんを持ってきて
からからいわせながら
なあ、何が入っているか、かけないか
そういう
お前のなんだから
お前の有利にも
程がある
そういったら笑って、
当てたら千円やるよというから
なんにもかんがえずに
どんぐり、と、いった
椎はひとつだけ黙って
あたり、と
かんをあけてみせたら
10もないようなドングリが
ころ、から
ころがっている
黒い小さいそのひとつをつまんで
どうしたんだ、これ、と聞いたら
落ちてたから拾った、と
仏頂面でいう
あてられたことが
くやしかったらしい
それから立ち上がって
冷蔵庫から冷えたワインの瓶を取り出し
みず、のむ?
と聞いてくる
ワインじゃないのか
ないんだよ
あはは
それから
別になにもはなすことがなくなって
なんとなく
どんぐりを埋めにいこう
何個かは
きっと、うまくはえるよ
大きな木になって
きっと、はえる
そういったら
椎はチラッと自分を見て
笑うように
つぶやきはじめた
―― 胸から血の味がする、と
思ったけれど
それはそれで
良いように思えた
ふと、みあげたら
部屋の窓から
真緑色の川が
ゆっくり、とおくへ流れていくのが見える
右うしろのほうから流れて
もっと先にと
続いている
真っ白く見える
曇り空の上の方に
黒い鳥が飛んでいる
―― 血の味がする
そういうと
貴方は笑う
なにそれ
そういえば
わからん、どっかで
おぼえたんだ
詩だよ
―― 胸から血の味がする、と
思ったけれど
それはそれで
良いように思えた
―― 血の味がする
そういうと
貴方は笑う
―― 胸から血の味がする
―― きりきりと 空を舞う 小さな雪
雪が 幸なら
よかったのに
―― 胸から 血の味がする
黙ってきいていたら
椎は、詩をいい終えたらしい
音が消えたように思えた
それから
なぁ、何も望まないことが
できるか、と
きいてくる
よくわからなかったから
どうして、と
きいたら
何も望まないって
難しいんだよ
そういう
Series :
短編
Tag:
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2012-01-17
10:43:02
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うぬぼれという
恋文をもらったのは
17ぐらいの時で
あまり深く
考えもしないで
付き合った
:
―― こけがはえていますね
―― 世辞を言うなよ
―― せじ?
メゾン荘とよばれる白いアパートの一部屋に
椎はすんでいて
先程メールで遊びに来ないかと誘われた
二年ほど住んでいるらしいその部屋は
あちこちいたんで
フローリングがすこしたわんでいる
嫌な話だけど、春になるとさ
みずまわりから腐った臭いが
あがってくるんだ、下水のさ
そういう
ハーモニカが転がっていたから
聞くのか、と聞いたら
吹くんだよ、きくんじゃないよ
そう、わらった
ついで
椎は、なにかからからいう
クッキーの絵がかかれた
丸いかんかんを持ってきて
からからいわせながら
なあ、何が入っているか、かけないか
そういう
お前のなんだから
お前の有利にも
程がある
そういったら笑って、
当てたら千円やるよというから
なんにもかんがえずに
どんぐり、と、いった
椎はひとつだけ黙って
あたり、と
かんをあけてみせたら
10もないようなドングリが
ころ、から
ころがっている
黒い小さいそのひとつをつまんで
どうしたんだ、これ、と聞いたら
落ちてたから拾った、と
仏頂面でいう
あてられたことが
くやしかったらしい
それから立ち上がって
冷蔵庫から冷えたワインの瓶を取り出し
みず、のむ?
と聞いてくる
ワインじゃないのか
ないんだよ
あはは
それから
別になにもはなすことがなくなって
なんとなく
どんぐりを埋めにいこう
何個かは
きっと、うまくはえるよ
大きな木になって
きっと、はえる
そういったら
椎はチラッと自分を見て
笑うように
つぶやきはじめた
―― 胸から血の味がする、と
思ったけれど
それはそれで
良いように思えた
ふと、みあげたら
部屋の窓から
真緑色の川が
ゆっくり、とおくへ流れていくのが見える
右うしろのほうから流れて
もっと先にと
続いている
真っ白く見える
曇り空の上の方に
黒い鳥が飛んでいる
―― 血の味がする
そういうと
貴方は笑う
なにそれ
そういえば
わからん、どっかで
おぼえたんだ
詩だよ
―― 胸から血の味がする、と
思ったけれど
それはそれで
良いように思えた
―― 血の味がする
そういうと
貴方は笑う
―― 胸から血の味がする
―― きりきりと 空を舞う 小さな雪
雪が 幸なら
よかったのに
―― 胸から 血の味がする
黙ってきいていたら
椎は、詩をいい終えたらしい
音が消えたように思えた
それから
なぁ、何も望まないことが
できるか、と
きいてくる
よくわからなかったから
どうして、と
きいたら
何も望まないって
難しいんだよ
そういう