くぬらのおう

くぬらのおうが
話すには
あの人は
愛されたいと願いながら
愛せないようだった

目の前にいた黒猫は
くぬらの王に言う

くぬら、彼ら人らは
愛されたいと願いながら
愛せないのではなくて
愛するのが怖いのですよ

くぬらのおうは笑う

あの人よりも
下に思えるものしか
あの人は受け入れられない
愛せないようだった

黒猫は笑う

怖いのですよ くぬら

くぬらの王は
ひどいきもちになって
金ぴかのコップに
赤いワインを注ぎ込んで
かんぱい、という

黒猫は笑う

むずかしいことですね

くぬらの王は
いらだちながら云う

だまらないか

黒猫は金ぴかの目で王をちらりと見て
あなたの安寧を
お祈りしますよ
そういったとたん
くぬらの王が
金ぴかのコップを猫に投げつけ
猫は飛び退って逃げる

―― ほんとうですよ

だまれ、だまれ

―― くぬらの王、
 大切なものを大切に思う気持ち
 自分の心を 受け入れるのは
 人に心をねだるより
 力がいる

 勇気でしょうね

―― くぬら
 あいせないのでは ないのですよ

月は金ぴかで
やけに大きくて
真っ黒い夜空に
ただ、ぼってりと浮いている
東洋のバラと呼ばれる赤い花が
黒い夜空を彩っている
2012-01-19 21:33:13