花の星
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小説
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2012
> 確認済み
確認済み
荒れ地と雑木林の近くにある古びた美術館は
ほこりのたまった白い壁に
たくさんの茶けた額縁をつけて
たくさんの古びた絵を飾っていた
幾度か通っていたが
別にたいしたこともなく
つまらないと、何度か感じた
それでも日々何もすることがなく
あの人が帰るまでに
明るい時間が何時間もあって
たまにぽっかりあいてしまう
あいてしまうのがいやで
そのたびに
遊びに行った
数回目で、その人に会い
話しかけたのは
その人が青緑で
あたまにアンテナのようなものがあって
コスプレにしては
少し妙な気がしたからだ
話しかけると
やっぱりほかの星の人だという
驚かないんですか、と聞くから
何度かそういう人にはあってきたんです
そう、いった
宇宙人、という言葉を
彼らはひどく忌み嫌う
―― なぜって
ぼくらは人ではないし、
宇宙人なんて言うなら
こちらからみたら
君らが、宇宙の人なんだし
にんげんだろ、
宇宙に人は人間しかいない
ぼくらは、宇宙の人じゃない!
途中から怒りながらそういったのは
人間の男のふりを上手にしていた彼だった
美術館の前に泥沼があって
それが汚れたガラス越しに見える
その前に乱雑におかれた白いベンチに
自動販売機でかったジュースを片手に
二人で並んで座った
いつから、ここにいらっしゃるのでしょう
そう聞いたら、
思い出せないです、だいぶ前です
そういった
昔は、髪型がとても変な人がいっぱいいて
あたまをそっていたんですけど
いまは、頭の毛をはやすのが
はやりなんですね
そういう
しばらく、ちちちちと
たえまなく囀る鳥の声に
ふたりで耳を傾けていた
ばささ、と
どこかで何かが飛び立つ
やっぱり宇宙の方としては
絵とかに興味がありますか、と聞いたら
いいえ、それほどではないです
静かな声でそうこたえながら
実は、もう帰ろうかな、と思っていたので
最後に近いところにある
こういったものを
ずっと見てなかったもので
近いところにあるから
来てみたんです
ああ、そうだったんですね
笑ったら、その人は急に
私の眼の奥を覗き込むように見て
それから、ひとついった
きんきらのめ きんきらのめ
ほしいです
くださいな
あら、危ない人だわ
いいえ、宇宙人、いいえ
他星生物さん……
さしあげませんよ
これは私のですもの
あなたにはもう
立派なめんめが
あるじゃないですか
そう答えたら
その人は ふう、と
深いため息をついた
おびえないんですね
少し微笑んで、そういう
長いこと
他星調査員なんてやっているとね
と、こたえたら、
ああ、やっぱりそうだったんですか
そう言われた
ええ
ふ、と
水が好きな
彼のことを思い出す
河童だなんて言われて
皮膚がかわいたら
死にはしないが辛くなる
禿げだなんて
偏見だよ
禿げてても素敵だっていえ!!
そういいながら
かつらの中に水をいれて
今日も仕事に行っている
しごと、嫌いなんだって
あーあ
昔は尻の穴から
たましいを抜けば
すんでいたのになぁ、だの
ぶつぶつ文句ばかり言っている
でも、まんざらでもないみたい
部長が面白いんだって
でもきらいなんだって
空を見上げると
あわい青色から
こまかい、糸のような柔らかな雨が降ってきた
泥沼の上を通りかかった白い猫が
ふと、私たちをふりかえる
にゃあーん、と
ないた
青緑の他星生物さんは
それを見て、くすくすわらってから
最後に、あなたに会えてよかったです
なぜか、そうつぶやいた
Series :
中編
Tag:
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2012-02-06
15:53:08
花の星
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ほこりのたまった白い壁に
たくさんの茶けた額縁をつけて
たくさんの古びた絵を飾っていた
幾度か通っていたが
別にたいしたこともなく
つまらないと、何度か感じた
それでも日々何もすることがなく
あの人が帰るまでに
明るい時間が何時間もあって
たまにぽっかりあいてしまう
あいてしまうのがいやで
そのたびに
遊びに行った
数回目で、その人に会い
話しかけたのは
その人が青緑で
あたまにアンテナのようなものがあって
コスプレにしては
少し妙な気がしたからだ
話しかけると
やっぱりほかの星の人だという
驚かないんですか、と聞くから
何度かそういう人にはあってきたんです
そう、いった
宇宙人、という言葉を
彼らはひどく忌み嫌う
―― なぜって
ぼくらは人ではないし、
宇宙人なんて言うなら
こちらからみたら
君らが、宇宙の人なんだし
にんげんだろ、
宇宙に人は人間しかいない
ぼくらは、宇宙の人じゃない!
途中から怒りながらそういったのは
人間の男のふりを上手にしていた彼だった
美術館の前に泥沼があって
それが汚れたガラス越しに見える
その前に乱雑におかれた白いベンチに
自動販売機でかったジュースを片手に
二人で並んで座った
いつから、ここにいらっしゃるのでしょう
そう聞いたら、
思い出せないです、だいぶ前です
そういった
昔は、髪型がとても変な人がいっぱいいて
あたまをそっていたんですけど
いまは、頭の毛をはやすのが
はやりなんですね
そういう
しばらく、ちちちちと
たえまなく囀る鳥の声に
ふたりで耳を傾けていた
ばささ、と
どこかで何かが飛び立つ
やっぱり宇宙の方としては
絵とかに興味がありますか、と聞いたら
いいえ、それほどではないです
静かな声でそうこたえながら
実は、もう帰ろうかな、と思っていたので
最後に近いところにある
こういったものを
ずっと見てなかったもので
近いところにあるから
来てみたんです
ああ、そうだったんですね
笑ったら、その人は急に
私の眼の奥を覗き込むように見て
それから、ひとついった
きんきらのめ きんきらのめ
ほしいです
くださいな
あら、危ない人だわ
いいえ、宇宙人、いいえ
他星生物さん……
さしあげませんよ
これは私のですもの
あなたにはもう
立派なめんめが
あるじゃないですか
そう答えたら
その人は ふう、と
深いため息をついた
おびえないんですね
少し微笑んで、そういう
長いこと
他星調査員なんてやっているとね
と、こたえたら、
ああ、やっぱりそうだったんですか
そう言われた
ええ
ふ、と
水が好きな
彼のことを思い出す
河童だなんて言われて
皮膚がかわいたら
死にはしないが辛くなる
禿げだなんて
偏見だよ
禿げてても素敵だっていえ!!
そういいながら
かつらの中に水をいれて
今日も仕事に行っている
しごと、嫌いなんだって
あーあ
昔は尻の穴から
たましいを抜けば
すんでいたのになぁ、だの
ぶつぶつ文句ばかり言っている
でも、まんざらでもないみたい
部長が面白いんだって
でもきらいなんだって
空を見上げると
あわい青色から
こまかい、糸のような柔らかな雨が降ってきた
泥沼の上を通りかかった白い猫が
ふと、私たちをふりかえる
にゃあーん、と
ないた
青緑の他星生物さんは
それを見て、くすくすわらってから
最後に、あなたに会えてよかったです
なぜか、そうつぶやいた