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2012
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金色のつき
青色の深いくらい湖に
真白い花が咲いている
幾重にも、幾重にも
ぼったりと重いくびを傾け
花が咲いている
窓からみおろした湖は
花びらを浮かせて
風にゆんぐりゆがいでいる
あたまが腐ってきた気がした
生臭さがひどい
触れた見たら、なにやら固いこぶがある
鏡でみたら人面のついたこぶだ
なにか話すかと思ったが、なんにも話さない
風にでもさらそうかと
そとに向かった
自動ドアがひらいたとたんに
風はびゅうびゅうと吹き荒れて
マンションの玄関にころがりこんで
びいいいびいいと叫んで遊ぶ
ジンメンソ、といったか
とにかく、人面だ
おかしさに、どうしていいかわからない
人に見られるのが嫌で
上着のフードをかぶった
布ごしに耳の傍を
風がびゅうびゅうと吹き抜ける
ひどく生暖かい風だった
まるで、誰かの手のひらが
なでてくれているようだと思う
どこからか白い花が散ってきて
それをみて、
幽霊をいちどきり見たことがある、と
思い出した
怖くはなかった
竹やぶの中に、赤い服を着た人がいる
それはなにか
竹やぶごとで、
青緑のふうけいに
その人は私をじいっと見ている
じいっと見ているのに、その目がよく見えない
ただ、すこし、かなしそうだった
『ジンメンソが生えたよ』
携帯でメールを打って
送信しようとした時、
携帯のアドレス帳に
誰ものっていないことに気がついた
何の名前もない
「まだ誰も登録されていません」という
電子の文字がペロッと書かれている
それがうっすらゆがんでかわり
ひとつ、かかれる
「ひとをすき?」
すこし嫌な気持ちになって携帯をぱたんととじて
ポケットに入れる
道には四角い白いビルがたちならんで
あおいあおいすこし湿った空
その下に、やたらに静かな通り道
風の音だけが過ぎている
―― 今日、なにをくいる?
ふいに、言葉が聞こえる
誰だろうと思う、あまりよく聞き取れない
―― あした、なにをする?
見上げると、塀の上に影のような
小さくなったり大きくなったりする
わけのわからないものがいて
それがこそこそ話し合っている
―― となりのおばさん
パンチぱーまかけた
―― むごいね
―― なぜ……
あわれみはよせ
あわれみはよせ
ふいに、以前見たことのある幽霊が
真っ赤な服のまま私の前にいて
さけんでいた
あわれみは よせ
そうだなぁ、と思う
私、あわれみはいらない
―― なんのために
君はさけぶ、きみを、さけぶ
影がごそごそと話し続ける
―― 傷つくより
傷つける方が
こわいさ……
その影に向かってその幽霊が
ええい、うるさい、こそどろめ
そういって、ばし、ばし、と
二回ほどなにかをなげつけた
影がきいいぎいいと
叫びながら逃げていく
いやらしいお化けめ!
そうして私をその人は見てから
ひとこと、ふたこと
いわれる
―― おにぎりでも、たべるか
梅が良いなぁ、と思ったら
うめ、か
それはよいな
そういわれる
では、梅を見に行こうか
手を差し出される
梅を見にいこう
いきたくなってしまったので
足をすこしとめて、
ゆっくりあたりを見渡した
真っ白いビルと青い道
かぶっていたフードを脱ぐと
風がぶううううっと
音を立てて耳を痛くしていった
目の前に顔を向けても、もう誰もいない
頭の上に手を置いてみたら、こぶはなくなっていた
Series :
中編
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2012-02-17
15:36:03
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真白い花が咲いている
幾重にも、幾重にも
ぼったりと重いくびを傾け
花が咲いている
窓からみおろした湖は
花びらを浮かせて
風にゆんぐりゆがいでいる
あたまが腐ってきた気がした
生臭さがひどい
触れた見たら、なにやら固いこぶがある
鏡でみたら人面のついたこぶだ
なにか話すかと思ったが、なんにも話さない
風にでもさらそうかと
そとに向かった
自動ドアがひらいたとたんに
風はびゅうびゅうと吹き荒れて
マンションの玄関にころがりこんで
びいいいびいいと叫んで遊ぶ
ジンメンソ、といったか
とにかく、人面だ
おかしさに、どうしていいかわからない
人に見られるのが嫌で
上着のフードをかぶった
布ごしに耳の傍を
風がびゅうびゅうと吹き抜ける
ひどく生暖かい風だった
まるで、誰かの手のひらが
なでてくれているようだと思う
どこからか白い花が散ってきて
それをみて、
幽霊をいちどきり見たことがある、と
思い出した
怖くはなかった
竹やぶの中に、赤い服を着た人がいる
それはなにか
竹やぶごとで、
青緑のふうけいに
その人は私をじいっと見ている
じいっと見ているのに、その目がよく見えない
ただ、すこし、かなしそうだった
『ジンメンソが生えたよ』
携帯でメールを打って
送信しようとした時、
携帯のアドレス帳に
誰ものっていないことに気がついた
何の名前もない
「まだ誰も登録されていません」という
電子の文字がペロッと書かれている
それがうっすらゆがんでかわり
ひとつ、かかれる
「ひとをすき?」
すこし嫌な気持ちになって携帯をぱたんととじて
ポケットに入れる
道には四角い白いビルがたちならんで
あおいあおいすこし湿った空
その下に、やたらに静かな通り道
風の音だけが過ぎている
―― 今日、なにをくいる?
ふいに、言葉が聞こえる
誰だろうと思う、あまりよく聞き取れない
―― あした、なにをする?
見上げると、塀の上に影のような
小さくなったり大きくなったりする
わけのわからないものがいて
それがこそこそ話し合っている
―― となりのおばさん
パンチぱーまかけた
―― むごいね
―― なぜ……
あわれみはよせ
あわれみはよせ
ふいに、以前見たことのある幽霊が
真っ赤な服のまま私の前にいて
さけんでいた
あわれみは よせ
そうだなぁ、と思う
私、あわれみはいらない
―― なんのために
君はさけぶ、きみを、さけぶ
影がごそごそと話し続ける
―― 傷つくより
傷つける方が
こわいさ……
その影に向かってその幽霊が
ええい、うるさい、こそどろめ
そういって、ばし、ばし、と
二回ほどなにかをなげつけた
影がきいいぎいいと
叫びながら逃げていく
いやらしいお化けめ!
そうして私をその人は見てから
ひとこと、ふたこと
いわれる
―― おにぎりでも、たべるか
梅が良いなぁ、と思ったら
うめ、か
それはよいな
そういわれる
では、梅を見に行こうか
手を差し出される
梅を見にいこう
いきたくなってしまったので
足をすこしとめて、
ゆっくりあたりを見渡した
真っ白いビルと青い道
かぶっていたフードを脱ぐと
風がぶううううっと
音を立てて耳を痛くしていった
目の前に顔を向けても、もう誰もいない
頭の上に手を置いてみたら、こぶはなくなっていた