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2012
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子
泣いている子がいたから
赤いマフラーをあげた
その子はうっとうしげに
私をしげしげ見あげて
なにこれ、いらないといった
そうだね、と
いっておいた
ざんざらのあめが
ばらばらにふりそそぎ
池は大忙しで
たくさんの波紋を出して
一生懸命、
ぶるぶるしている
天気雨、あたたかい水の中
光がさしてすこし美しい
あちこちにある黒い木々が、
あつぼったい葉をつけて
白い花が咲いている
たくさんたくさん
咲いている
子は池のほとりにいて
静かに泣いていた
声が出ていないので
どうしてかな、と思ったら
ああ、泣かないふりをしているんだと
わかった
泣いたって ないたって
ないたって ないたって
最初に出会った時は
もう、あんまりおぼえていない
鼻血が出ていたので
テッシュをかしたら
さわぐな、と怒られた
なんだよ、とも
言われた気がする
なんだか嫌な子だと
こころざわり
嫌気をおぼえ
その後味の悪さだけは
しっかり
おぼえている
またブランコにのって
足をぶうぶう揺らし
それから私に叫ぶ
こんなくっさいマフラーいらない!
くびがおえってする
あはは
私は、笑う
ブランコのすみにすわって笑う
あの子の目に
私が見下されて
うつっている
プライド。
おかあさん
おまえのこと
わらってたもの
いってたぜ
わかっているから
言わなくていいよ
いってたぜ
げんじつから
にげちゃ
だめだぜ
そう、じゃあ
いってごらん
わたしも
貴方の現実を
言うよ。
そういうと
ぎゅっと
その子は黙る
……ずるいぞ
…… おたがいさま
春なのに
風が冷たい
トイレの脇の花が一番綺麗に咲く
鳥は虫を食べる
ゴキブリとかね、気持ちの悪い虫
蓮は泥から湧き上がり、咲きほこる
どんなものでも
りゆうなんか
つけようと思ったら
つけたものがち
もともとないものに
好きにつければ
いい
……学校なんか大嫌い
つまんないし
みんな、ばかだし
……そう
本でも取り出して読もうか
それとも、寒いから帰ろうか
すこし迷う
みんなつまんないんだよ!
ふざけんなバーカ
子が足から靴を投げて
その靴がぶうんと
遠くまで飛ぶ
ぼすっと
泥の中に落ちる
……とってこい
まるで震えるように言うから
おかしくなって
……自分でとって来い
そういっておいた
けんけんして
取りに行くその子の背中を見ながら
……余裕があれば
だれでも
聖者になれるんですって
つぶやいたら
聞こえているのか、いないのか
子は靴を取りあげながら
ふりかえらない
ふと、耳の後ろが
汚れているのに気がつく
……あのね
……貴方は多分嫌われまくるわ
子が振り返り
目にいっぱいの涙をためている
とても深く
唇をかみ締めている
……あなたが
貴方の、いちばんの
わからずやに見える
……誰かがいっていたわ
自分は善き理解者、善き友達
でも、いつまでたっても
最悪の厄介者だってさ
あんたは
私が好きなのかよ
子が言う
だから答える
好きよ。
Series :
短編
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2012-03-14
15:46:01
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赤いマフラーをあげた
その子はうっとうしげに
私をしげしげ見あげて
なにこれ、いらないといった
そうだね、と
いっておいた
ざんざらのあめが
ばらばらにふりそそぎ
池は大忙しで
たくさんの波紋を出して
一生懸命、
ぶるぶるしている
天気雨、あたたかい水の中
光がさしてすこし美しい
あちこちにある黒い木々が、
あつぼったい葉をつけて
白い花が咲いている
たくさんたくさん
咲いている
子は池のほとりにいて
静かに泣いていた
声が出ていないので
どうしてかな、と思ったら
ああ、泣かないふりをしているんだと
わかった
泣いたって ないたって
ないたって ないたって
最初に出会った時は
もう、あんまりおぼえていない
鼻血が出ていたので
テッシュをかしたら
さわぐな、と怒られた
なんだよ、とも
言われた気がする
なんだか嫌な子だと
こころざわり
嫌気をおぼえ
その後味の悪さだけは
しっかり
おぼえている
またブランコにのって
足をぶうぶう揺らし
それから私に叫ぶ
こんなくっさいマフラーいらない!
くびがおえってする
あはは
私は、笑う
ブランコのすみにすわって笑う
あの子の目に
私が見下されて
うつっている
プライド。
おかあさん
おまえのこと
わらってたもの
いってたぜ
わかっているから
言わなくていいよ
いってたぜ
げんじつから
にげちゃ
だめだぜ
そう、じゃあ
いってごらん
わたしも
貴方の現実を
言うよ。
そういうと
ぎゅっと
その子は黙る
……ずるいぞ
…… おたがいさま
春なのに
風が冷たい
トイレの脇の花が一番綺麗に咲く
鳥は虫を食べる
ゴキブリとかね、気持ちの悪い虫
蓮は泥から湧き上がり、咲きほこる
どんなものでも
りゆうなんか
つけようと思ったら
つけたものがち
もともとないものに
好きにつければ
いい
……学校なんか大嫌い
つまんないし
みんな、ばかだし
……そう
本でも取り出して読もうか
それとも、寒いから帰ろうか
すこし迷う
みんなつまんないんだよ!
ふざけんなバーカ
子が足から靴を投げて
その靴がぶうんと
遠くまで飛ぶ
ぼすっと
泥の中に落ちる
……とってこい
まるで震えるように言うから
おかしくなって
……自分でとって来い
そういっておいた
けんけんして
取りに行くその子の背中を見ながら
……余裕があれば
だれでも
聖者になれるんですって
つぶやいたら
聞こえているのか、いないのか
子は靴を取りあげながら
ふりかえらない
ふと、耳の後ろが
汚れているのに気がつく
……あのね
……貴方は多分嫌われまくるわ
子が振り返り
目にいっぱいの涙をためている
とても深く
唇をかみ締めている
……あなたが
貴方の、いちばんの
わからずやに見える
……誰かがいっていたわ
自分は善き理解者、善き友達
でも、いつまでたっても
最悪の厄介者だってさ
あんたは
私が好きなのかよ
子が言う
だから答える
好きよ。