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2012
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うすぐもり
深いあおいそらに
真っ黒い細いみきを
たいへんにのばして
梅が咲いています
白い梅はまだ蕾もありながら
さきはじめた花花を
風のなかにあてて
ここちよい薫りを漂わせます
かたむいた木のベンチにならんですわり
ポットにいれてきたというから
ひとつもらったら
紅茶でもコーヒーでもなく
お味噌汁がでてきたから
おどろきました
彼は寒いといいながら
梅をみあげ
よろこび、しずかにはしゃいでいます
うつむいたひとが
ポッポと、泥のなか
足跡をつけて
わたしにも、彼にも気づかず
無言で夢中に歩いていかれました
ヤマ浜、悩んでるんだな
その姿を目でおいながら
彼がいいますから
知り合いですか、ときいたら
むかしの、と
答えます
むかしの、小学生ぐらいんとき
鉄棒の錆びた味とか
おぼえている?
絵の具のふるいにおい
ゴキブリがでてきてさわいでさ
誰かがトイレいってさわいでさ
俺はうえからトイレットペーパーなげた
椅子、こわしたり
跳び箱きらいで
変な話を彼はつづけ
わたしは味噌汁の具がちいさなアサリだとわかり
彼のポットの入口からは
大半のアサリがでられなかったんじゃないかとおもい
アサリだけがポットにのこる様子を思い浮かべます
あのさ、
唐突に彼がいいます
ちいさなころは
なぜ、ばかりだった
あんたどうだった?
すこししたら、どうしようになってさ
ついでさ、
どうしようもないんだと
わかってさ
いまだに
ずっと、ふかく
迷っている気がする
どうしたら
いいんだろうって
どうにかなるのに
なるようにしか
ならないのに
いきなり何を言うんだろうと
彼をみていたら
すこしだけわらって
気にしなくていいといいます
明日はどこにいこうか、
半わらいのまま言うから
じゃ、学校にでも、と
いいました
あなたの学舎
桜はありましたか
わたしの学校の木は
去年きられました
木は抱くものだとおもうんです
触ると、たしかに
さわられるのを
待っていたように
支えてくれる
ちいさな鳥が
きょうきょうとした
かれんな声で
飛び去っていきました
帰り道
彼の背中は寒そうにまるまり
ふらりふらり歩く姿を見送ってから
信号をよっつのアパートに向かいます
ふたつめでひっかかり
青くなるのを待つ間
ふいに、
途方にくれた
迷ってもいないのに
迷ってしまった時のような
ひどいとまどいをおぼえました
こわかった
夕暮れどきで
鳥はいそがしそうにないていて
子供のあそびさけぶこえ
自転車、自動車のおと
ひとの歩くおと
―― こころのなかに迷い
みえなくなったら
まわりのおとを
きくことにしている
理由とか、こたえとか
もとめちゃうと
余計迷うから
俺の目の前の
現実いがいにも
現実ってあるんだって
これだけが
現実じゃないんだって
わかったら
なんか、安心するんだ
いつのまにか
まわりには誰もいなくて
うすぐらい紫色のそらに
青信号がきらめいている
Series :
短編
Tag:
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2012-03-16
15:46:21
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真っ黒い細いみきを
たいへんにのばして
梅が咲いています
白い梅はまだ蕾もありながら
さきはじめた花花を
風のなかにあてて
ここちよい薫りを漂わせます
かたむいた木のベンチにならんですわり
ポットにいれてきたというから
ひとつもらったら
紅茶でもコーヒーでもなく
お味噌汁がでてきたから
おどろきました
彼は寒いといいながら
梅をみあげ
よろこび、しずかにはしゃいでいます
うつむいたひとが
ポッポと、泥のなか
足跡をつけて
わたしにも、彼にも気づかず
無言で夢中に歩いていかれました
ヤマ浜、悩んでるんだな
その姿を目でおいながら
彼がいいますから
知り合いですか、ときいたら
むかしの、と
答えます
むかしの、小学生ぐらいんとき
鉄棒の錆びた味とか
おぼえている?
絵の具のふるいにおい
ゴキブリがでてきてさわいでさ
誰かがトイレいってさわいでさ
俺はうえからトイレットペーパーなげた
椅子、こわしたり
跳び箱きらいで
変な話を彼はつづけ
わたしは味噌汁の具がちいさなアサリだとわかり
彼のポットの入口からは
大半のアサリがでられなかったんじゃないかとおもい
アサリだけがポットにのこる様子を思い浮かべます
あのさ、
唐突に彼がいいます
ちいさなころは
なぜ、ばかりだった
あんたどうだった?
すこししたら、どうしようになってさ
ついでさ、
どうしようもないんだと
わかってさ
いまだに
ずっと、ふかく
迷っている気がする
どうしたら
いいんだろうって
どうにかなるのに
なるようにしか
ならないのに
いきなり何を言うんだろうと
彼をみていたら
すこしだけわらって
気にしなくていいといいます
明日はどこにいこうか、
半わらいのまま言うから
じゃ、学校にでも、と
いいました
あなたの学舎
桜はありましたか
わたしの学校の木は
去年きられました
木は抱くものだとおもうんです
触ると、たしかに
さわられるのを
待っていたように
支えてくれる
ちいさな鳥が
きょうきょうとした
かれんな声で
飛び去っていきました
帰り道
彼の背中は寒そうにまるまり
ふらりふらり歩く姿を見送ってから
信号をよっつのアパートに向かいます
ふたつめでひっかかり
青くなるのを待つ間
ふいに、
途方にくれた
迷ってもいないのに
迷ってしまった時のような
ひどいとまどいをおぼえました
こわかった
夕暮れどきで
鳥はいそがしそうにないていて
子供のあそびさけぶこえ
自転車、自動車のおと
ひとの歩くおと
―― こころのなかに迷い
みえなくなったら
まわりのおとを
きくことにしている
理由とか、こたえとか
もとめちゃうと
余計迷うから
俺の目の前の
現実いがいにも
現実ってあるんだって
これだけが
現実じゃないんだって
わかったら
なんか、安心するんだ
いつのまにか
まわりには誰もいなくて
うすぐらい紫色のそらに
青信号がきらめいている