おかえりなさい

てのひらをにぎりしめ
もう一度ひらくと
あかい、あかい
いろがついて
綺麗だなぁ、と思う

なんとなく
手のひらを見ていると
なんとなく
安心する
なぜかは、わからない

並木道
もうすぐ咲くような
そうでもないような花で満ち溢れ
たくさんの木の葉と
沢山の足跡でできている

桃色のちいさな鳥が
その真ん中をぽてぽてとあるいて
飛ばないのかなぁ、と思ってみていたら
そのまま、ぽてぽてと
歩いていった
きっと、歩きたかったんだろう

……わたしね
ずっと
人によく
思われたかったんだ

隣でマチ子が言う
あたまをアフロにしたせいで
あだなが
針からマチ針になった
華奢で綺麗な子だけど
弱くはない

……ずうっと
ずうっと

春のにおいが
かすかにふくまれ
それでもまだ寒い
みぞれでも降りそうな
薄くにごった空
水と灰色の空

桃色の鳥が
もういっぴき
ものめずらしげにぽてぽてと
辺りを眺めながら
(ついでに私と真知子をしげしげみて)
歩いていく

……ずうっと
人から良く思われたくて
ひとに、好かれたかった
それでね
その根をこのあいだ
たどってみたのよ

たどってみた、を
こっそり
秘密のような調子で
マチ子がつぶやく

そうしたら
なんだったと思う
わたしね
自分を
人に喜ばれたいのね
喜ばれるように
いきたいのよ

たぶん本能……

なぜだろう
急に、やわらかな甘いにおいがして
ふりかえったら
ああ、ぎんもくせい
さきはじめた
ももいろと銀色の
ちいさな花の群れ
この花、さ
町のあちこちにある
とってもそうはみえないのに
とても、いいにおいだね

そういったら
マチこが小さな声で笑う
あ、ねえ
ひよこの群れよ

みたら、
ももいろのふさふさした鳥が
何匹も、なんびきも
どうどうと
ぼくらはこの道を歩きたいんです
そんな顔で胸をはって
よちよちと、歩きつらなる

つらなって、歩いていく

……明日、あした
あしたは、あした
あしたになったら
なにをしよう

もしも
わたし
だれかに
うれしいと
いわれたら

それか
いてくれて
うれしいひとに
であえたら

いきていて
よかったと
おもえない……

……そういうふうな
ほんのうの きもち……


じゃあ、楽しもうか
そういって
マチコがベンチから立ち上がる
え? なにをして、と聞いたら
わかんない、とりあえず
さんぽして帰ろうと、いわれた
2012-03-22 18:37:55