花の星
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2012
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かめ
りぐん、と
まっくろいくちをあけて
巨大な亀が
えさをくれるように、と
りぐん、りぐんと
叫ぶ
紅い柱によすみをささえられ、
まるで塔のように
くみあわされた足場の上
ばけつにはいった肉塊を
亀の口に放り込む
あのさ、と
バケツのかたがわをもった
りょうちゃんがいう
りょうちゃんは
おさななじみで、男の子で
ちょんまげだ
あのさ、
主任、つかまったって
へえ、なんでまた
巨大な亀は
うえから見ると
とてつもない大きさで
まぶたひとつが
ぼくらの背ほどある
それがうっすらとあいたり
とじたり、
眼球がまぶたごしに動く
それを見ていると
のみ、っていうのは
人間がこう見えるのかもな、なんて思う
ばいしゅんだよ
ばいしゅん
ほら、去年のおわり
主任と、上2人
会社の金で……
おまえが休んでた昨日に、いわれたよ
あささ、みんなあつまって
りょうちゃんは
少し、興奮したように
すごいよな、……どうなっちゃうんだ
会社、つぶれんのかなぁ
お金、どうなんだ
つばをぺっぺと
とばしながいう
りょうちゃんは、口を閉じているとハンサムだから
もてるんだけど
口をあけると、ふられる
おれさあ、きょうさ
朝、けだものにあったよ
獣、いぬいぬ
おれ犬好きなんだ
だからね、このけだものめ!って
にんげんだもの、ってあるじゃないか
にんげんだもの
けだものだもの
けだもの。
ほほほほほ
なにいってんだか
自分では、分かっているんだろう
はたから聞いているとさっぱりだけど
……なんで、社長も主任も
売春なんか
しちまったんだろうな
にへにへしていた主任の顔を思い浮かべる
へっぴり腰で
にやけ面がうまかった
……のりだろう
のり?
にんげんだもの……
ノリで傷つけるし
ノリでくるしめるし
ノリで、
ノリで悪いことする……
……はは
おくさん、おくさん、
大変だよな
謝ってたよ
おくさん、
あんたのせいじゃないのになぁ……
ごめんなさいね
おっとがほんとうに、
ごめんなさい……
かめが口のなかに
捨てられるように与えられた肉を
とりこぼしながらも
もうもう、もぐもぐん、と
どうどうに
唇を動かしてくだす
もぐ、もぐ、もぐ
口のはしから肉が
ぼろ、ぼろ、ぼろ、ぼろと
流れ出る
りょうちゃんが
あーどうすっかなぁ、という
カメ、巨大な亀は目をうっすらあけて
僕らを見上げる
足の下
白く、緑色の
大きさ以外はすべて
普通の、カメ
大きすぎて
うろこのひとつひとつ
皮膚のひとつひとつ
ゆっくり、
うごいている
……りょうちゃん
一緒に住む?
家賃、半分であがるよ
そう聞いたら
りょうちゃんがいう
いやだよ
おまえといたら
喧嘩しそうだ
……
カメをみながら
りょうちゃんはなんで
わからないのに
分かるんだろうと思う
亀の目が
うっすらとひらかれる
青く、緑色に澄んだ
奇麗な瞳
その目がうるんで
泣いている
……
……みにくさはみあきた
みな 自分が嫌いだから
自分はいいやつだと
おもいこんでる
……ひねくれたナルシス
……なに? うた?
……昔はやったんだ
おれの中で
……あはは
……みにくさは
みあきた
こんな自分
自分でも
きらいだから
いいやつなんだと……
抱えた自己嫌悪
ゆううつで
許してほしいと
願っている
卑屈なナルシス……
しんとする
足元の亀のうごく、
鈍い、ぼんよりとした
大きな音だけが
空に、みたされる
カメが、
どろどろ、どろどろと
涙をこぼしながら
ふかく、泥に沈んでいく
また、夢を見るんだろう
つぎの餌まで
きがついたら
雨が降っている
こまかい音みあげれば
うすあおの窓ガラス
外の庭が好きなんだ
やわらかな緑に
しろいちいさな花がさいている
今咲きごろだよ
やわらかなやわらかな
ちいさな花
あとで散歩しない?
……
かめって、どんな夢を見るんだろう……?
そういったら
ようやく笑いながら
りょうちゃんはこたえる
恋の夢だろう
Series :
中編
Tag:
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2012-03-23
13:41:45
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まっくろいくちをあけて
巨大な亀が
えさをくれるように、と
りぐん、りぐんと
叫ぶ
紅い柱によすみをささえられ、
まるで塔のように
くみあわされた足場の上
ばけつにはいった肉塊を
亀の口に放り込む
あのさ、と
バケツのかたがわをもった
りょうちゃんがいう
りょうちゃんは
おさななじみで、男の子で
ちょんまげだ
あのさ、
主任、つかまったって
へえ、なんでまた
巨大な亀は
うえから見ると
とてつもない大きさで
まぶたひとつが
ぼくらの背ほどある
それがうっすらとあいたり
とじたり、
眼球がまぶたごしに動く
それを見ていると
のみ、っていうのは
人間がこう見えるのかもな、なんて思う
ばいしゅんだよ
ばいしゅん
ほら、去年のおわり
主任と、上2人
会社の金で……
おまえが休んでた昨日に、いわれたよ
あささ、みんなあつまって
りょうちゃんは
少し、興奮したように
すごいよな、……どうなっちゃうんだ
会社、つぶれんのかなぁ
お金、どうなんだ
つばをぺっぺと
とばしながいう
りょうちゃんは、口を閉じているとハンサムだから
もてるんだけど
口をあけると、ふられる
おれさあ、きょうさ
朝、けだものにあったよ
獣、いぬいぬ
おれ犬好きなんだ
だからね、このけだものめ!って
にんげんだもの、ってあるじゃないか
にんげんだもの
けだものだもの
けだもの。
ほほほほほ
なにいってんだか
自分では、分かっているんだろう
はたから聞いているとさっぱりだけど
……なんで、社長も主任も
売春なんか
しちまったんだろうな
にへにへしていた主任の顔を思い浮かべる
へっぴり腰で
にやけ面がうまかった
……のりだろう
のり?
にんげんだもの……
ノリで傷つけるし
ノリでくるしめるし
ノリで、
ノリで悪いことする……
……はは
おくさん、おくさん、
大変だよな
謝ってたよ
おくさん、
あんたのせいじゃないのになぁ……
ごめんなさいね
おっとがほんとうに、
ごめんなさい……
かめが口のなかに
捨てられるように与えられた肉を
とりこぼしながらも
もうもう、もぐもぐん、と
どうどうに
唇を動かしてくだす
もぐ、もぐ、もぐ
口のはしから肉が
ぼろ、ぼろ、ぼろ、ぼろと
流れ出る
りょうちゃんが
あーどうすっかなぁ、という
カメ、巨大な亀は目をうっすらあけて
僕らを見上げる
足の下
白く、緑色の
大きさ以外はすべて
普通の、カメ
大きすぎて
うろこのひとつひとつ
皮膚のひとつひとつ
ゆっくり、
うごいている
……りょうちゃん
一緒に住む?
家賃、半分であがるよ
そう聞いたら
りょうちゃんがいう
いやだよ
おまえといたら
喧嘩しそうだ
……
カメをみながら
りょうちゃんはなんで
わからないのに
分かるんだろうと思う
亀の目が
うっすらとひらかれる
青く、緑色に澄んだ
奇麗な瞳
その目がうるんで
泣いている
……
……みにくさはみあきた
みな 自分が嫌いだから
自分はいいやつだと
おもいこんでる
……ひねくれたナルシス
……なに? うた?
……昔はやったんだ
おれの中で
……あはは
……みにくさは
みあきた
こんな自分
自分でも
きらいだから
いいやつなんだと……
抱えた自己嫌悪
ゆううつで
許してほしいと
願っている
卑屈なナルシス……
しんとする
足元の亀のうごく、
鈍い、ぼんよりとした
大きな音だけが
空に、みたされる
カメが、
どろどろ、どろどろと
涙をこぼしながら
ふかく、泥に沈んでいく
また、夢を見るんだろう
つぎの餌まで
きがついたら
雨が降っている
こまかい音みあげれば
うすあおの窓ガラス
外の庭が好きなんだ
やわらかな緑に
しろいちいさな花がさいている
今咲きごろだよ
やわらかなやわらかな
ちいさな花
あとで散歩しない?
……
かめって、どんな夢を見るんだろう……?
そういったら
ようやく笑いながら
りょうちゃんはこたえる
恋の夢だろう