竜のうた

そのしょうにゅうどうは
美しい水晶があちこちにたちならび
また壁は真珠のように白くなり
いつも、きらめく光に
あふれていました

それというのも
天井の、いっとう遠くの
垂れ下がった岩柱のかげに
わずかな穴があいていて
そこから
月や太陽の明かりがさしこむからです

今宵はまた格別で
お月様はきっと
洞窟の真上あたりに
いらっしゃるのでしょう

真銀色の月明かりは
下にあるいっとう大きな水晶の中に
ひかりをすうっといれてかえし
あちらこちらの水晶が
かえされた
ひかりをすいこんで
きらきら、ひかひかと
きらめいています

桃色の竜がいっぴき
洞窟の湖
ひたひたに澄んだ
冷たい水から
ゆっくり泳いで
細かい銀の粒の砂浜にはいでてきました

それからひといきついて
何か夢を見ていたようだと
首をふります

それから洞窟の湖の魚を
なんびきかしっぽで
ぱしん、ぱしんと
たたいて気絶さえ
まもしゃまもしゃと口にしました

薄赤色のもういっぴきの竜が
やっぱり静かな湖を
みだすことなく
静かにおよぎ、わたってきて
その竜にはなしかけました
どうした、なにか
あったのか

竜の目は金色にすんで
透明な輝きに満ちています
なにか、ゆめをみていた
しかし、
思い出せない
そういうと、薄赤いほうの竜が
すこしだけ考えて
なぐさめるように長い首を
桃色の竜の首につけました
ねいりばな、いやなもの
いやなものでも食べたんだろう
きづかうな、きょうはこもりうたでも
歌ってやろう

遠く離れた町の中の一つ
家の中にいた小さな子供が
ふ、と耳にきこえた
やわらかい音楽に気づいて
きょろきょろとあたりを見渡します

おさない小さな子供は
おかあさんのうた、と思い
おかあさんを見上げます
彼女は隣にいて
うたた寝をしていました
その胸にほほをくっつけて
おかあさんのうた、と
もう一度思う

おかあさんのむねが
どん、どんと
脈打っている
ああ、おかあさんのうただ

とおくのどこかの鍾乳洞で
見た夢をなつかしんで
竜がすこしだけきしんでいます
ふたつの竜は
首をよせあって
うたをうたう
どん、どん

竜をうんだ竜の
そのまえの竜からつたわる
古い歌を
ふたりで、うたう

胸を通じて
どん、どん、と
歌が流れる
2012-05-23 10:00:00