花の星
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2012
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両性類の会合
まっぐろい池のほとりに
白い花がたくさんさいている
色濃い緑の葉が
影のように覆いかぶさり
花の白だけほの明るい
風がおうおう、おうおうと流れ
あまりの大きな音に
会合の地にいこうと
いそぎ跳ねていた
小さなカエルは
胸にある心臓が
どお、どお、と
鳴りやまないのを感じる
どお どお
風にうたわせられているよう
私の体が
ふるえている
小さな笛になったように
かえるは口をあけて歌ってみる
ああお おあ
風が通り抜けるよう
声から歌が流れ出る
空は青みのかかった黒
水晶の粉のように星が光っている
もうすぐ雨でも降るのだろう
じょじょに風が湿り気をおび
雲ははやく
きらめく星を
けむるようにかくし
流れつづけている
小さなカエルの
風のうたに
ハミングするように
どこかでどこかのカエルが
ひとこえないた
白いやわらかな花は
風にゆっぐり
ないで、ないで
ひとつひとつ
花弁がちぎれ
土についたり
浮いたりしながら
流れていった
そのひとつ
くったりとした花弁を
カエルはひろい
少し考え
あたまにぺとりとつけてみた
会合ですもの
おしゃれしなくちゃ
きれいなつもりになって
もういちど、歌ってみる
けお けお けーお けーお
そうするといつの間にか隣に
もう少し大きなカエルが来て
大きいと思ったらそれはサンショウウオで
彼は頭の上に
人間のかみのけ――のような
こんぶのようなものを付けている
それ、 どうされたの
うすみどり、すこし黄ばんだカエルが
驚いて、ひっくりかえりそうになった心臓を
おさえおさえて、たずねると
青黒いサンショウウオはうっすらわらって
おちていたから
つけてみたのだ
人間がこうしていた
かぶるものなのだ
そうして
ずいぶん偉そうに
こういう風にするのだ、と
水でしんなり、ぺっとりとなったそれを
首をふってふりみだした
うっふん
カエルはどう答えればいいのか分からず
ただつぶらな瞳でサンショウウオを見ている
今宵は月かけの夜
両生類るいの会合の日
:
だいぶ風もふいてきて
とうとう雨がふりはじめ
池の上は大変な騒ぎ
そばにあるぬめぬめした岩の上
カエル、サンショウウオ
そのほか、ぬめぬめした
どろどろしたものが集い
雨と風を一身に受けながら
嬉しそうに話し合う
金色のサンショウウオが
月がきれいなので
わたしのものにしたいと言い出し
その隣のカエルがいう
胸にしまっておけばいい
誰のものだと争う気は
だれにもない
そこで嵐が過ぎ去ったら
ぬめぬめしたその皮膚に
月明かりをあびて
だれが一番奇麗に光るか
コンテストをしようということになる
だれがいちばん
奇麗な月明かり
きれいな月明かり
まとえるか
嬉しそうに
花弁のかんむりをつけたカエルがなく
そんなことって嬉しいわ……
わくわくするね
ぼくは負けないぞ
べったりしたかつらをかぶった
サンショウウオが
がんばっていう
嵐はぼうぼうとないて
風も雨もくるっている
ぬめぬめした生き物たちは
その風をぬめっとした顔面に受け
くるった嵐の心がおちつき
空をみせてくれるのを
いまかいまかと
わくわくしながら
見上げて待つ
Series :
短編
Tag:
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2012-05-26
13:58:47
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白い花がたくさんさいている
色濃い緑の葉が
影のように覆いかぶさり
花の白だけほの明るい
風がおうおう、おうおうと流れ
あまりの大きな音に
会合の地にいこうと
いそぎ跳ねていた
小さなカエルは
胸にある心臓が
どお、どお、と
鳴りやまないのを感じる
どお どお
風にうたわせられているよう
私の体が
ふるえている
小さな笛になったように
かえるは口をあけて歌ってみる
ああお おあ
風が通り抜けるよう
声から歌が流れ出る
空は青みのかかった黒
水晶の粉のように星が光っている
もうすぐ雨でも降るのだろう
じょじょに風が湿り気をおび
雲ははやく
きらめく星を
けむるようにかくし
流れつづけている
小さなカエルの
風のうたに
ハミングするように
どこかでどこかのカエルが
ひとこえないた
白いやわらかな花は
風にゆっぐり
ないで、ないで
ひとつひとつ
花弁がちぎれ
土についたり
浮いたりしながら
流れていった
そのひとつ
くったりとした花弁を
カエルはひろい
少し考え
あたまにぺとりとつけてみた
会合ですもの
おしゃれしなくちゃ
きれいなつもりになって
もういちど、歌ってみる
けお けお けーお けーお
そうするといつの間にか隣に
もう少し大きなカエルが来て
大きいと思ったらそれはサンショウウオで
彼は頭の上に
人間のかみのけ――のような
こんぶのようなものを付けている
それ、 どうされたの
うすみどり、すこし黄ばんだカエルが
驚いて、ひっくりかえりそうになった心臓を
おさえおさえて、たずねると
青黒いサンショウウオはうっすらわらって
おちていたから
つけてみたのだ
人間がこうしていた
かぶるものなのだ
そうして
ずいぶん偉そうに
こういう風にするのだ、と
水でしんなり、ぺっとりとなったそれを
首をふってふりみだした
うっふん
カエルはどう答えればいいのか分からず
ただつぶらな瞳でサンショウウオを見ている
今宵は月かけの夜
両生類るいの会合の日
:
だいぶ風もふいてきて
とうとう雨がふりはじめ
池の上は大変な騒ぎ
そばにあるぬめぬめした岩の上
カエル、サンショウウオ
そのほか、ぬめぬめした
どろどろしたものが集い
雨と風を一身に受けながら
嬉しそうに話し合う
金色のサンショウウオが
月がきれいなので
わたしのものにしたいと言い出し
その隣のカエルがいう
胸にしまっておけばいい
誰のものだと争う気は
だれにもない
そこで嵐が過ぎ去ったら
ぬめぬめしたその皮膚に
月明かりをあびて
だれが一番奇麗に光るか
コンテストをしようということになる
だれがいちばん
奇麗な月明かり
きれいな月明かり
まとえるか
嬉しそうに
花弁のかんむりをつけたカエルがなく
そんなことって嬉しいわ……
わくわくするね
ぼくは負けないぞ
べったりしたかつらをかぶった
サンショウウオが
がんばっていう
嵐はぼうぼうとないて
風も雨もくるっている
ぬめぬめした生き物たちは
その風をぬめっとした顔面に受け
くるった嵐の心がおちつき
空をみせてくれるのを
いまかいまかと
わくわくしながら
見上げて待つ