救い欲

『特別になりたい』だったら
きっと
まだ、ましなんだろう
途中で、どのみち
特別にはなれないことに
気がつくから

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温かな日差しも
やわらかにおち
もう、肌寒いような夜が来る
庭においてある鉢植えから
いつの間にか芽が出た
夜顔がさいている

鉢植えのなかを
蜘蛛のてあしをもった
金色の観音さまが
はわれていた
そうして、
ふたつの足を器用につかわれて
赤く、金色にひかるあめ玉を
どこからかとりだし
空になげた

ぱち、ぱち、ぱち
あめ玉がはぜて
ちいさな花火を
ゆかなぎの顔の前にたちあげた
すこしおくれて
どぉん、と
ちゃんと、音がする

「ぜる、あいな
ぞる」

不思議なことばを話される
ゆかなぎを見上げ
首を2、3回かしげ
また、ふところから
今度は青く、銀色にひかる玉を
とりだされる
ふ、と
動きやめて
ゆかなぎを見上げ

「わたしは災いのものだけど
ひとがみると
多幸のものにみえるらしい」

そういう
ゆかなぎは、なんとなくわかる
極彩色で美しい
『毒』をもつものは
みな、彩りが、派手でくっきりしている

そういえば、前、お会いした
高僧の方は、ぼろをまとい
大変じみなお姿をしていた
「欲に求められないようにだね」
ゆかなぎの心を読んだのか
彼女はいわれ
青い玉をぺろりとなめた

「救われたい
人間が嫌い
現実が嫌い
救うことで、救われたい輩が
わたしに、はまります」

にょろ、にょろ、と
そのお腹がもぞ動いた、
そうして、そこから
金色の触手が
びゅるびゅるのびて
びゅるびゅるうごく

「あたまにこれをはりつけて
欲を吸う
欲をすうと
心はバランスを欠いて
どんどん欲をつくるようになる」

「あたまの知恵も、
運命も、生活も
日常も、これで、吸いあげる」

「生活もわからなくなり
ひともわからなくなり
あたまだけが
ただフル回転して
欲がたつたつと沸くようになる」

「わたしたちは」

そこで彼女は言葉をきった
よそうね、どうでもよいことだもの

そういわれる

救いたい、という
気持ちはほんもの
コノヒトは
コノヒトこそが
救えるものだとほめられて
救われたがる欲が
ごろんと、こころに
よこたわっていたとしても

欲をすって
吸われるから
延々と欠落する
欠落するから
つぎつぎに
つくるようになる
心はバランスを
とろうとするから……

お金をほしがり
名誉をほしがり
地位をほしがり
称賛をほしがり

脳みそがどんどんどんどん回転する
観音がいないと
なんにも考えられなくなる……

わたしは怖いです、という
観音さまは、さみしげに笑う

救いたい、という
気持ちが、ほんものなぶん
厄介かもね

それでも、観音様なんだよ
2016-08-27 09:19:38