ねがい、かなうなら

目を覚ますとお侍さまがいた

きれいな刀で
なんどか、躍りを踊られる
刀はひかり。ひかり
ひかりが、蛇のように
ながれ、くねり、
お侍さまのとめる息
はく息あわせ
ぼうっとつよくなり
よわくなりする

お侍さまがいわれる

『まものは
たやすく、ひとのこころに入り込む
その人がみたいものをみせ
見たい姿をみせるのです』

とたんに
地面が波たった
選民意識、特別意識、と
リズミカルに
太鼓を叩きながら
誰かが叫んでいく

地面から、それが聞こえる
聞こえるたびに
地面がなみたつ
選民、意識、特別、意識

『そんなことをしたら
幸福になれないよ』

目の前に
ちいさな男の子がいた

『自分はちがう』

『~ーーをしたら
幸福になれるよ』

『きみはちがう』

かなえてあげないよ?
かなえてあげるよ?

地面は
特別意識、選民意識の
声と太鼓のくりかえしで
もう、泡をたてている

ゆかなぎは
お侍が、困ったような顔をして
ゆかなぎをみているのに
きがついた

『うそつきは
人の欲を足場にする
丁寧に、ふんでいく
そうして、人に近づく』

ゆかなぎは
すこし考えて
こまって、わらった

選民意識や、特別意識から
あなたがたにかかわるなら
わたしをしかってください
できる限り
あらんかぎりの
ちからで、殴り飛ばしてください

こわい、と
ゆかなぎはいう

きっと、謙虚にいなさいとか
うぬぼれないでいなさいとか
いわれるのは
ここは、魔物がすむ世界だからだ

お侍も
困ったような顔をしたまま
ゆかなぎから、めをそらし
また、刀をふりはじめた

ゆん。しゅん。ゆん

刀がながれ、光が流れる
まるで、高速でうごいているものを
写真にとらえるかのよう
お侍がうごくたび
残像のような白いものが
そのまわりにひきずられて
はしる

そういえば、とりさんは
いわないな、と
ゆかなぎはおもいだす
ただいつも
なにかをしている

とりさんは
あたえられるものを
語らない
未来の事も語らない
ゆかなぎに
なんにも問わない

ただ、いつも
とりさんのことを
されている

そんなとりさんの背中をみるのが
とても、好きだった

:

朝起きると、とりさんが
傍にいること
泣きそうなときに
背中をなでてくれること
たのしいことに
一緒にわらって
はなしあったこと
ごはんのときに
一緒にたべて
ご馳走さま
おいしかったね、とか
いまいちだったね、とか
そんなことが
つぎつぎに
おもいおこされる
お侍をみていたら
あとからあとから、とまらず
思い出される
気がつくと、ポロポロ涙がこぼれてる
ポロポロ、ポロポロ
こぼれておちる

目の前にいた男の子が
それをみながら
つぶやいた

『しあわせなんだね。』

たちどころに、きえた。
煙さえ、のこらなかった。

お侍が刀をおいて
ゆかなぎを見つめる

『まものは
見たい姿を
みせてくる
いわれたいことを
いってくる』

ゆかなぎはつたえる

何年も前に
病に落ちました
努力してきたことは
きえはてました
つみあげてきたものは
自分へのものも
ひとへのものも
くずれて
きえました

えらいひとに
選ばれたこともあります

それでも
病にかかったとき
自分の身になった力以外
なんにも、てもとには
のこらなかった

身にのこったもの、は
いまなお
できること。だけ

選民、えらばれた民でありたいと
わたしがのぞんだら
苦痛をください、
こえて、身の力をつけたい
特別、特別なそんざいでありたいと
わたしがのぞんだら
苦痛をください、
こえて、身の力をつけたい
無になる時
のこるちからが
わたしのちからで
選ばれたことが偉いわけではなく
特別なことが偉いわけではなく
それは、わたしではない
わたしは、わたしの、身の力を
つけていきたい

お侍は、ゆかなぎにむきあった
刀を振り上げ
そうして、ふりおろした
2016-08-27 12:43:19