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2011
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かすかな話
ふ、と
とおくから
はなしてみたら
まわりにまわるのは
その人の影だった
:
ぷわ、ぷわ、と
海の底から
あぶくのような
白いきれいな水泡が
うえにあがっていった
あれは、くらげ
くらげが
海と空を
まちがえて、
のぼってしまうんです
そう、あなたは笑った
途中で気づいて
あわてて戻る
くらげもいるけれど
そのまま、月まで
いってしまうくらげもいて
月の美しさに
まいってしまう
くらげもいるの
月についた
くらげはどうするの?
きいたら
月のうさぎと
ダンス、ダンス
ダンス、ダンス
うれしそうに
あなたまで
おどった
ほこりっぽいから
やめてよぅ
海からひろった真珠を
ころころ手のひらで転がしたら
真珠は、きらきら
太陽のひかりで
金色にまたたいた
太陽は、ぴかぴか、ぴかぴかとして
ちっとも明るい
のぼるくらげの
ひかりひかり
あら、蒸発しているわ
だいじょうぶかしら
わたし、いま
いくつにみえるんでしょう
もう、年など
あまり気にしておりませんけれど
それでも、若いときは
たのしみと
くるしみが
どうも、ふかくて
なんだか、死にたい、うれしいが
とても、とても
ささえきれないほど
体に入ってしまうんです
空の、とおくのほうでは
りゅうりゅ、りゅうりゅ
オーロラが
かかっている
オーロラは
うろこのようだ
空の、うろこのようだ
うろこのような
オーロラの前
うすい奇麗な
銀色くらげ
くらげは
鳥のように
すずしそうに
きれいにきれいに
のぼっていく
空が、びりびりふるえて
もう、こちらは
夏も近いのに
こまかい雨ばかり
また、ふってきた
くらげたちのあいまをぬって
さまさまさまさま
雨は降る
金色のおひさまの光
あめの細い、ひかり
くらげたちの
金色のすけすけな光
あたたかい、こまかい雨は
まるで、おだやかな
水の中にいるような気持ちになる
太陽がぴかぴかしながら
雨が、たいようの痛みを
かくしながら、
ふってくるようです
くらげたち
ああ、おや、水がふってきたと
安心したようです
すこし
もしかしたら
この世界は
愛しい
どちらだってかまわない
海も、空も
にたようなものだもの
異なるだけだもの
そういうから
ええ、そうかしら、
空も海も
似たようなものかしら?
うん、似たようなものだよ
空を見上げると
飛行機がとんでいて
それが、たまに
海の中の魚の尾びれに見える
きれいな、魚が
泳いでいるように思える
空の空の、空の雲は
下の方のわたしたちを
つつみこみながら
きっと「うーん魚っぽい」って
思っているんだ
ねえ、といったら
うん、という
私は、たまに
不思議に思えます
わたしと、わたしより小さい人と
わたしより大きい人が
たくさんいるのです
この世界で、
100より上から0までのひとが
たくさんいるのです
ひとことで
100といっても
すごいことです
100年も、生きてきた人と
生まれて初めての人が
とても、とても多いんです
なんて、アンバランスな
世界なんでしょう
この世界は理不尽だと思う
だって、まったく
おんなじなんか ないんだもの
平等とか、
おなじとか、ないんだもの
ちがうんだもの
ふ、ふ、と
あの人は
オーロラばかりをおっている
オーロラは
きんきんきらきら
きんきんきらきら
空が呼吸をするようだ
あの人は笑う
私は泣いている
ほとんど、くるしくて
泣いている
くるしいから
急に泣いている
神様に
祈りたい
祈りたいのに
何を祈っていいかわからない
彼は、
わたしの手をとんとん、と
やわらかくたたく
現実が
辛い、っていうのは
やっぱり、波のようなものだから
繰り返すんですよ
あなたは、やさしいですね
私が言ったら
ふふ、と青年は笑って
やさしいも、こわいも
反対にすぎないです
とんとん、と
わたしの手を
もういちどたたいた
かみさま わたしを 強くしてください
いいえ かみさま わたしを
もっと 愛深くしてください
わたしは、力が
入りすぎている背中を
じぶんでとんとんと
たたいた
肩のあたりにくらげがいて
少し驚いた
ここに、いさせてください
そういわれた
だから、くらげを引き離して
となりのおいた
空を見ていたら
くらげは、ぐずぐず泣き始めた
おや、大丈夫、ときいたら
太陽が僕の水を
かわかしているだけです
太陽が、いっぱい
いっぱい、かわかしたら
今度は
あたらしい水をもらうんです
だから、大丈夫です
ぼくは、水を
はいて、すって
はいて すって
はいて すって
えーと、くらげになるんです
あ、ちがった
くらげとして くらげくらげをしつづけるんです
あっはっは、って笑ってしまった
それで、わたしは
何をしたいんだったっけと
空を見上げた
透明な青、群情おびた
まっぴろい空
太陽は、ぴかぴかぴかぴか
あかるい
ぐんぐんぐんと
暑い夏がせまる
木々はもう
黒い土から
あまいやわらかな
いろのあたらしい葉をだして
うまれたてのにおいを
風にのせている
花は、春花が枯れていく
夏の花に、かわろうとしている
ふう、と
風が吹いた
空のくらげが
きゃあきゃあいいながら
風に流されていく
透明な空に
しろく、うすい、
きれいな、きれいな
けなげなくらげたち
すって はいて
すって はいて
すって はいて くらげくらげを
しつづける
そうね、空も
雨があるから
きっとくらげくらげ
し続けられる
太陽が、ぴかぴかぴかぴか
真っ白い月が
はしっこから、
もうのぼっていて
うっすら、空の端が赤紫
もうすぐ、夕暮れだ
どうして、太陽さんは
沈む時に
赤くなるんだろう
ああ、ふう、なんて
力を抜いてしまうんだろう
ふう、ねよう、というように
くらげたちは
たいように
きらきら煌く
ええっと、
わたしたち、
どこへいきたいんだったっけ
どこへもいきたいわけじゃない
ただ、とんだり生きたりはねたり笑ったり
生きたり 生きたり 生きたりしたいだけ
くらげなら くらげとして
くらげくらげに 生きたいだけだよ
命限りに くらげのくらげを 生きていくの
どこへもいきたいわけじゃない
とうとつに、涙がとまった
きっと、わたしたちも
人間人間したいだけ
生きて、いきて
おどってうたってわらってたべてのんで
ねむって生きて
人間人間しつづけたい
耐えたり、悩んだり
けなげを背負う人の
せなかは、ごつごつしています
ずいぶん、忍んでこなかったかと思う
あの想いは
何処まで行くんでしょう
やっぱり
死にたいなんて
変だよね
あたまがへんになってるんだから
だったら、それは
違うよね
っていったら
うん、変だよね、って
いってくれた
人間なんだから、
人間を愛し、愛されたら
とても、幸せなんだよね
って、いったら
それが難しいから
大変なんだよね、って
いわれた
そうだね
Series :
中編
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2011-05-18
23:18:12
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とおくから
はなしてみたら
まわりにまわるのは
その人の影だった
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ぷわ、ぷわ、と
海の底から
あぶくのような
白いきれいな水泡が
うえにあがっていった
あれは、くらげ
くらげが
海と空を
まちがえて、
のぼってしまうんです
そう、あなたは笑った
途中で気づいて
あわてて戻る
くらげもいるけれど
そのまま、月まで
いってしまうくらげもいて
月の美しさに
まいってしまう
くらげもいるの
月についた
くらげはどうするの?
きいたら
月のうさぎと
ダンス、ダンス
ダンス、ダンス
うれしそうに
あなたまで
おどった
ほこりっぽいから
やめてよぅ
海からひろった真珠を
ころころ手のひらで転がしたら
真珠は、きらきら
太陽のひかりで
金色にまたたいた
太陽は、ぴかぴか、ぴかぴかとして
ちっとも明るい
のぼるくらげの
ひかりひかり
あら、蒸発しているわ
だいじょうぶかしら
わたし、いま
いくつにみえるんでしょう
もう、年など
あまり気にしておりませんけれど
それでも、若いときは
たのしみと
くるしみが
どうも、ふかくて
なんだか、死にたい、うれしいが
とても、とても
ささえきれないほど
体に入ってしまうんです
空の、とおくのほうでは
りゅうりゅ、りゅうりゅ
オーロラが
かかっている
オーロラは
うろこのようだ
空の、うろこのようだ
うろこのような
オーロラの前
うすい奇麗な
銀色くらげ
くらげは
鳥のように
すずしそうに
きれいにきれいに
のぼっていく
空が、びりびりふるえて
もう、こちらは
夏も近いのに
こまかい雨ばかり
また、ふってきた
くらげたちのあいまをぬって
さまさまさまさま
雨は降る
金色のおひさまの光
あめの細い、ひかり
くらげたちの
金色のすけすけな光
あたたかい、こまかい雨は
まるで、おだやかな
水の中にいるような気持ちになる
太陽がぴかぴかしながら
雨が、たいようの痛みを
かくしながら、
ふってくるようです
くらげたち
ああ、おや、水がふってきたと
安心したようです
すこし
もしかしたら
この世界は
愛しい
どちらだってかまわない
海も、空も
にたようなものだもの
異なるだけだもの
そういうから
ええ、そうかしら、
空も海も
似たようなものかしら?
うん、似たようなものだよ
空を見上げると
飛行機がとんでいて
それが、たまに
海の中の魚の尾びれに見える
きれいな、魚が
泳いでいるように思える
空の空の、空の雲は
下の方のわたしたちを
つつみこみながら
きっと「うーん魚っぽい」って
思っているんだ
ねえ、といったら
うん、という
私は、たまに
不思議に思えます
わたしと、わたしより小さい人と
わたしより大きい人が
たくさんいるのです
この世界で、
100より上から0までのひとが
たくさんいるのです
ひとことで
100といっても
すごいことです
100年も、生きてきた人と
生まれて初めての人が
とても、とても多いんです
なんて、アンバランスな
世界なんでしょう
この世界は理不尽だと思う
だって、まったく
おんなじなんか ないんだもの
平等とか、
おなじとか、ないんだもの
ちがうんだもの
ふ、ふ、と
あの人は
オーロラばかりをおっている
オーロラは
きんきんきらきら
きんきんきらきら
空が呼吸をするようだ
あの人は笑う
私は泣いている
ほとんど、くるしくて
泣いている
くるしいから
急に泣いている
神様に
祈りたい
祈りたいのに
何を祈っていいかわからない
彼は、
わたしの手をとんとん、と
やわらかくたたく
現実が
辛い、っていうのは
やっぱり、波のようなものだから
繰り返すんですよ
あなたは、やさしいですね
私が言ったら
ふふ、と青年は笑って
やさしいも、こわいも
反対にすぎないです
とんとん、と
わたしの手を
もういちどたたいた
かみさま わたしを 強くしてください
いいえ かみさま わたしを
もっと 愛深くしてください
わたしは、力が
入りすぎている背中を
じぶんでとんとんと
たたいた
肩のあたりにくらげがいて
少し驚いた
ここに、いさせてください
そういわれた
だから、くらげを引き離して
となりのおいた
空を見ていたら
くらげは、ぐずぐず泣き始めた
おや、大丈夫、ときいたら
太陽が僕の水を
かわかしているだけです
太陽が、いっぱい
いっぱい、かわかしたら
今度は
あたらしい水をもらうんです
だから、大丈夫です
ぼくは、水を
はいて、すって
はいて すって
はいて すって
えーと、くらげになるんです
あ、ちがった
くらげとして くらげくらげをしつづけるんです
あっはっは、って笑ってしまった
それで、わたしは
何をしたいんだったっけと
空を見上げた
透明な青、群情おびた
まっぴろい空
太陽は、ぴかぴかぴかぴか
あかるい
ぐんぐんぐんと
暑い夏がせまる
木々はもう
黒い土から
あまいやわらかな
いろのあたらしい葉をだして
うまれたてのにおいを
風にのせている
花は、春花が枯れていく
夏の花に、かわろうとしている
ふう、と
風が吹いた
空のくらげが
きゃあきゃあいいながら
風に流されていく
透明な空に
しろく、うすい、
きれいな、きれいな
けなげなくらげたち
すって はいて
すって はいて
すって はいて くらげくらげを
しつづける
そうね、空も
雨があるから
きっとくらげくらげ
し続けられる
太陽が、ぴかぴかぴかぴか
真っ白い月が
はしっこから、
もうのぼっていて
うっすら、空の端が赤紫
もうすぐ、夕暮れだ
どうして、太陽さんは
沈む時に
赤くなるんだろう
ああ、ふう、なんて
力を抜いてしまうんだろう
ふう、ねよう、というように
くらげたちは
たいように
きらきら煌く
ええっと、
わたしたち、
どこへいきたいんだったっけ
どこへもいきたいわけじゃない
ただ、とんだり生きたりはねたり笑ったり
生きたり 生きたり 生きたりしたいだけ
くらげなら くらげとして
くらげくらげに 生きたいだけだよ
命限りに くらげのくらげを 生きていくの
どこへもいきたいわけじゃない
とうとつに、涙がとまった
きっと、わたしたちも
人間人間したいだけ
生きて、いきて
おどってうたってわらってたべてのんで
ねむって生きて
人間人間しつづけたい
耐えたり、悩んだり
けなげを背負う人の
せなかは、ごつごつしています
ずいぶん、忍んでこなかったかと思う
あの想いは
何処まで行くんでしょう
やっぱり
死にたいなんて
変だよね
あたまがへんになってるんだから
だったら、それは
違うよね
っていったら
うん、変だよね、って
いってくれた
人間なんだから、
人間を愛し、愛されたら
とても、幸せなんだよね
って、いったら
それが難しいから
大変なんだよね、って
いわれた
そうだね