花の星
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2011
> 壊れないあなたのための賛美歌
壊れないあなたのための賛美歌
知識。
本や、誰や
執着や虚栄心
ほめられたいあまり
リアリズム、現実的だからと
すがりつくように
わかったふりをして
身につけたことを
すべて、捨ててください
のこったものが
あなただから
:
あめがたぱたぱと降っていて
月はその中
金色の光にかくれていた
ぼおっとした
暗い闇
わたしは何で生きていたのか
たまに忘れてしまう
それで、トミアが傍にいて
私を見上げては
それは、そうだよ
だれもが、そうだよ、というのだった
トミアは白いトカゲだった
小さなしっぽがぴこぴこの
きれいなトカゲだった
雨がしろく しろく
銀色の美しい玉のように
黒い闇にすこまれ
それをただ、
月が愛のままに
見下ろしている
たまに苦しくて泣いてしまう
この雨は何で
いつまでも
いつまでも
降り続いているのだろうか
いつになったら
わたしは 好きなことを出来るようになれる?
いつになったら
わたしは
わたしが
ほんとうになりたかった人に
なれるんだろう
ほんとうになりたかった人なんか
きみ、ほんとうは
いないんだろうって
トミアがいった
困ったようにいったんだ
なりたかったこと
なりたかったひと
なんにもない
ほんとうは 君
やりたかったことが
ずっと あったんだろう
だから、雨のふりをして涙をながした
真珠のような透明な
それでもまあるい涙が
雨の中
ふりそそいで
道まであふれた生ぬるい水にとけていった
君の名前で
誰もが君を呼ぶだろう
だけど君は
君の名前を冠のようには
感じられないんだろう
そうだよ、君が
いま、君を、きらいだから
トミアがいう
その白い髪の毛にすがりついて泣いた
おんおんないたら
生ぬるい水は
どんどんふえて
腰までたまった
腰から下の生ぬるい水の中
小さなとうめいで白い魚たちが
すいすい泳いだ
おう 天の川はいくばくか
おう あと千キロもあるけばよし
おう 天の川は良い味か
おう 天の川は今宵も良い
私はトミアに泣きながら
ええ 実は知っていた
だって 涙は
神様が下さった慈悲だもの
私は信頼いう鎖から
自由になりたい とつぶやいた
そして、私という檻からも
自由になりたい
誰かから見た自分と
自分から見た自分と
眠ろうか トミア
わたしもあなたも
随分疲れている
なにも わからなくなるほどに
トミア
:
あめがたぱたぱと降っていた
ふと気がつくと
黒い真っ黒いコンクリートの道路の真ん中に居た
握り締めたビニール傘は
なまぬるく雨をしたたり落としていた
はいた長靴がもう、
そこの底まで、雨に染みていた
横に2つのレールがあった
白いすこしばかり美しいまっすぐな線が
まっすぐ、水平線まで延びて交差して消えていた
私はビニール傘を
いっかい持ち上げなおして手を放した
ごう、と大きな音を立てて
ビニール傘は飛んでいった
透明な鳥に変わった
鳥はひとこえ、月のように啼いてとんだ
いななきのように
美しい声だった
私は、愛しているとつぶやいた
わかっている 愛している
どれ程この世が絶望で
どれ程あなたに愛がなくても
私は愛に寄り添う
貴方の言葉は自分のために吐かれ
人を傷つける
なんの主義、あなた主義
そう あなたのこころ あなたの欲望
あなたは
あなたをこえない
あなたのため
すべてを ふりまわす
わたしは、もう一度
愛をつぶやいた
遠くのとおくの山のいただきから
今日も美しい愛のうたが流れていた
それは愛のうたとしか
私にはいえない
ただ、うたなのだ
富士山から
いつも 東京まで
愛のうたが 流れている
星空がうたう
月がうたう
太陽がうたう
かみさまは知らない
この世界が
神様なんだ
そうしみじみ思った
ひれふして
地面に口付けした
ただ、そう思ったんだ
:
目が覚めたら
小さなトミアが
私を見下ろしていた
私はトミアのそばで
小さな寝息を立てていた
また現実なんだ、と思った
いつも現実は
律儀だ
けっして裏切らない
ちゃんと、続きからはじめてくれる
ふと気がついたら
すべてが夢だったらいいと思う
しかし、時はいつも
現実の続き
テープレコーダーの停止を押したように
前の部分から
はじまる
だから、泣きたくなる
Series :
中編
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2011-07-21
22:56:56
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執着や虚栄心
ほめられたいあまり
リアリズム、現実的だからと
すがりつくように
わかったふりをして
身につけたことを
すべて、捨ててください
のこったものが
あなただから
:
あめがたぱたぱと降っていて
月はその中
金色の光にかくれていた
ぼおっとした
暗い闇
わたしは何で生きていたのか
たまに忘れてしまう
それで、トミアが傍にいて
私を見上げては
それは、そうだよ
だれもが、そうだよ、というのだった
トミアは白いトカゲだった
小さなしっぽがぴこぴこの
きれいなトカゲだった
雨がしろく しろく
銀色の美しい玉のように
黒い闇にすこまれ
それをただ、
月が愛のままに
見下ろしている
たまに苦しくて泣いてしまう
この雨は何で
いつまでも
いつまでも
降り続いているのだろうか
いつになったら
わたしは 好きなことを出来るようになれる?
いつになったら
わたしは
わたしが
ほんとうになりたかった人に
なれるんだろう
ほんとうになりたかった人なんか
きみ、ほんとうは
いないんだろうって
トミアがいった
困ったようにいったんだ
なりたかったこと
なりたかったひと
なんにもない
ほんとうは 君
やりたかったことが
ずっと あったんだろう
だから、雨のふりをして涙をながした
真珠のような透明な
それでもまあるい涙が
雨の中
ふりそそいで
道まであふれた生ぬるい水にとけていった
君の名前で
誰もが君を呼ぶだろう
だけど君は
君の名前を冠のようには
感じられないんだろう
そうだよ、君が
いま、君を、きらいだから
トミアがいう
その白い髪の毛にすがりついて泣いた
おんおんないたら
生ぬるい水は
どんどんふえて
腰までたまった
腰から下の生ぬるい水の中
小さなとうめいで白い魚たちが
すいすい泳いだ
おう 天の川はいくばくか
おう あと千キロもあるけばよし
おう 天の川は良い味か
おう 天の川は今宵も良い
私はトミアに泣きながら
ええ 実は知っていた
だって 涙は
神様が下さった慈悲だもの
私は信頼いう鎖から
自由になりたい とつぶやいた
そして、私という檻からも
自由になりたい
誰かから見た自分と
自分から見た自分と
眠ろうか トミア
わたしもあなたも
随分疲れている
なにも わからなくなるほどに
トミア
:
あめがたぱたぱと降っていた
ふと気がつくと
黒い真っ黒いコンクリートの道路の真ん中に居た
握り締めたビニール傘は
なまぬるく雨をしたたり落としていた
はいた長靴がもう、
そこの底まで、雨に染みていた
横に2つのレールがあった
白いすこしばかり美しいまっすぐな線が
まっすぐ、水平線まで延びて交差して消えていた
私はビニール傘を
いっかい持ち上げなおして手を放した
ごう、と大きな音を立てて
ビニール傘は飛んでいった
透明な鳥に変わった
鳥はひとこえ、月のように啼いてとんだ
いななきのように
美しい声だった
私は、愛しているとつぶやいた
わかっている 愛している
どれ程この世が絶望で
どれ程あなたに愛がなくても
私は愛に寄り添う
貴方の言葉は自分のために吐かれ
人を傷つける
なんの主義、あなた主義
そう あなたのこころ あなたの欲望
あなたは
あなたをこえない
あなたのため
すべてを ふりまわす
わたしは、もう一度
愛をつぶやいた
遠くのとおくの山のいただきから
今日も美しい愛のうたが流れていた
それは愛のうたとしか
私にはいえない
ただ、うたなのだ
富士山から
いつも 東京まで
愛のうたが 流れている
星空がうたう
月がうたう
太陽がうたう
かみさまは知らない
この世界が
神様なんだ
そうしみじみ思った
ひれふして
地面に口付けした
ただ、そう思ったんだ
:
目が覚めたら
小さなトミアが
私を見下ろしていた
私はトミアのそばで
小さな寝息を立てていた
また現実なんだ、と思った
いつも現実は
律儀だ
けっして裏切らない
ちゃんと、続きからはじめてくれる
ふと気がついたら
すべてが夢だったらいいと思う
しかし、時はいつも
現実の続き
テープレコーダーの停止を押したように
前の部分から
はじまる
だから、泣きたくなる