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2011
> あぶく
あぶく
あぶくがたっていました
赤い湖畔のそとに
わたしたちはおりました
月なのか、太陽なのか
おだやかなひかりが
木々の影から差込んで
あぶくがはじけるたびに
その水しぶき
ひたすらに
瞬いておりました
あのそこには
魚が居るのです
魚があぶくを
たいています
そうおっしゃいました
ですから、いいえ
魚ではないでしょう、と笑いました
いま、お辛いでしょう
誰もが、
醜悪を抱えてしまうこと
人を傷つけてしまうこと
怒りをぶつけてしまうこと
情けないこころに
罪悪感を抱え
そんな自分を嫌っている
そうお伝えいただいたとき
わたしは ほんとうでしょうか、と
おもいました
わたしからみれば
彼らは 自分だけは正しいと、
すべてにおいて
自分の感情を優先され
罪の意識も 恥じの意識も
ましてや、傷つけたことさえ
傷ついた相手の所為にして
笑うように思えました
傷ついたことを
笑うように思えました
いいえ ひと 傷つけることが
きらいで 苛立つのです
責められたようで
いらだつのです
自分は悪くないと
そういう 苛立ちです
ですから 傷つけたら
自分の醜さの所為ではなくて
相手の所為なのです
相手が傷つくのが わるいのです
そして 人を笑い
人をののしり
人より自分が優れていると
そうさけぶ
傷つける自分には
恥じも罪も
ないのです
そしてそれは私の姿でした
あぶくがたっていました
その下には魚が居るようです
とても大きな魚です
わたし
たまにかれらを
かれらの、そのなまぬるい
人のみにくさだけをさけび
みずからを甘やかす姿
みるたびに
とにかく
ふかく 傷つけたいと望みます
ふかく ふかく
すれば、忘れませんでしょう
おのれの悪意を
忘れたくても ごまかしたくても
にげたくても
忘れられないでしょう
人を笑ったこと
人を馬鹿にしたこと
人を無自覚に 無意識に
軽んじ 笑い ののしったこと
あなたが 馬鹿にした人が
笑った人が
苦しめた人が
いつか あなたを
苦しめるでしょう
それは私の姿でもあります
赤い太陽がちゅうくらいにのぼり
きらきらと
赤い湖畔のうえ
光を瞬かせました
そうしたら赤い湖畔は
うすく金色をおびた紫にかわり
また太陽がいっそう強くなると
やがて澄んだ青い蒼い色合いにかわりました
そして風はふいていても
しずかな姿をたたえるようになり
ひとつあぶくをだして
それもまたおわりました
みあげると
鳥が群れをなしてとんでいました
声もなく とんでいました
だれもがみな
懸命で、ただひたすら
生きて、幸せになりたいとのぞみ
だけど なぜか
人をないがしろにして
かろんじて 笑い
人の姿をわらい
人をわらい
だれもがみな
ただひたすら 幸せになりたいと
のぞんでいる
わたし なんとなく
わかることが あるんです
老いては
できないことがふえ
なにもわからなくなり
くるしみ それをみて
そして年をとることは
悲惨だと思いました
そして若いことも
悲惨だと思いました
いらだちが
一生付いてまわり
ああ いつになったら
私は楽になりますか と
きいて おこたえは
きっと いらだちの因子を
みつけたとき
そうなんだろうとおもいました
ああ
これは
こわい
そう おもえました
ほかを軸にすることは
ほかに思いを揺らすこと
みずからのすがたを 軸に
そういったら
となりで微笑んで
湖の中に
手をいれてすうっと波紋をかかれました
わらうこと ののしること みくだすこと
罪を穿り返し ののしること
みにくさを ほじくりかえし
いらだつこと
なぜ あなたが そうなのか
あなたは わかりますか
堕ちてしまえば
楽ですか
いいえ 堕ちては無間の地獄
理由の分からない 意味の分からない
自分の見えない いらだちに
さいなまれ
なにがしたかったのかさえ
きえはてる
ただ 周囲への苛立ち
それだけ ただそれだけの
あれ 無間地獄
みからでた地獄に
おちないように
することは
つらいことですね
ただ 傷つけたいと
おもい願い
みずからの醜さの前
踏ん張るだけですもの
笑いたいですね
Series :
中編
Tag:
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2011-07-30
13:06:30
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赤い湖畔のそとに
わたしたちはおりました
月なのか、太陽なのか
おだやかなひかりが
木々の影から差込んで
あぶくがはじけるたびに
その水しぶき
ひたすらに
瞬いておりました
あのそこには
魚が居るのです
魚があぶくを
たいています
そうおっしゃいました
ですから、いいえ
魚ではないでしょう、と笑いました
いま、お辛いでしょう
誰もが、
醜悪を抱えてしまうこと
人を傷つけてしまうこと
怒りをぶつけてしまうこと
情けないこころに
罪悪感を抱え
そんな自分を嫌っている
そうお伝えいただいたとき
わたしは ほんとうでしょうか、と
おもいました
わたしからみれば
彼らは 自分だけは正しいと、
すべてにおいて
自分の感情を優先され
罪の意識も 恥じの意識も
ましてや、傷つけたことさえ
傷ついた相手の所為にして
笑うように思えました
傷ついたことを
笑うように思えました
いいえ ひと 傷つけることが
きらいで 苛立つのです
責められたようで
いらだつのです
自分は悪くないと
そういう 苛立ちです
ですから 傷つけたら
自分の醜さの所為ではなくて
相手の所為なのです
相手が傷つくのが わるいのです
そして 人を笑い
人をののしり
人より自分が優れていると
そうさけぶ
傷つける自分には
恥じも罪も
ないのです
そしてそれは私の姿でした
あぶくがたっていました
その下には魚が居るようです
とても大きな魚です
わたし
たまにかれらを
かれらの、そのなまぬるい
人のみにくさだけをさけび
みずからを甘やかす姿
みるたびに
とにかく
ふかく 傷つけたいと望みます
ふかく ふかく
すれば、忘れませんでしょう
おのれの悪意を
忘れたくても ごまかしたくても
にげたくても
忘れられないでしょう
人を笑ったこと
人を馬鹿にしたこと
人を無自覚に 無意識に
軽んじ 笑い ののしったこと
あなたが 馬鹿にした人が
笑った人が
苦しめた人が
いつか あなたを
苦しめるでしょう
それは私の姿でもあります
赤い太陽がちゅうくらいにのぼり
きらきらと
赤い湖畔のうえ
光を瞬かせました
そうしたら赤い湖畔は
うすく金色をおびた紫にかわり
また太陽がいっそう強くなると
やがて澄んだ青い蒼い色合いにかわりました
そして風はふいていても
しずかな姿をたたえるようになり
ひとつあぶくをだして
それもまたおわりました
みあげると
鳥が群れをなしてとんでいました
声もなく とんでいました
だれもがみな
懸命で、ただひたすら
生きて、幸せになりたいとのぞみ
だけど なぜか
人をないがしろにして
かろんじて 笑い
人の姿をわらい
人をわらい
だれもがみな
ただひたすら 幸せになりたいと
のぞんでいる
わたし なんとなく
わかることが あるんです
老いては
できないことがふえ
なにもわからなくなり
くるしみ それをみて
そして年をとることは
悲惨だと思いました
そして若いことも
悲惨だと思いました
いらだちが
一生付いてまわり
ああ いつになったら
私は楽になりますか と
きいて おこたえは
きっと いらだちの因子を
みつけたとき
そうなんだろうとおもいました
ああ
これは
こわい
そう おもえました
ほかを軸にすることは
ほかに思いを揺らすこと
みずからのすがたを 軸に
そういったら
となりで微笑んで
湖の中に
手をいれてすうっと波紋をかかれました
わらうこと ののしること みくだすこと
罪を穿り返し ののしること
みにくさを ほじくりかえし
いらだつこと
なぜ あなたが そうなのか
あなたは わかりますか
堕ちてしまえば
楽ですか
いいえ 堕ちては無間の地獄
理由の分からない 意味の分からない
自分の見えない いらだちに
さいなまれ
なにがしたかったのかさえ
きえはてる
ただ 周囲への苛立ち
それだけ ただそれだけの
あれ 無間地獄
みからでた地獄に
おちないように
することは
つらいことですね
ただ 傷つけたいと
おもい願い
みずからの醜さの前
踏ん張るだけですもの
笑いたいですね