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2011
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ナギとヤワ…黒い龍
……黒い龍が
うろこ逆立てて
走り流れた
ひずめに
ひっかかれた空
われて
雷がひかり ひかり
でも遠すぎて 音もなかったんだ
ナギが話す
ヤワはただ聞いている
霧の中、灰色
ぼんやりと明るい水の上
舟はすすむ
……龍のうろこが
いちまいいちまい
ひかり
魚のようだった
空半分、ひきさかれ
あつぼったい雲の隙間から
夕陽がさしていた
……僕は君と
ススキがはえた
茶色い草原にいた
それで空を見ていた
夕陽をみた時
僕の胸に
亀裂のように
はっきりした
まあかい痛みがはいり
それでようやく
ここが
現実ではないことが
わかった
ヤワがおきあがって
蛇も、脱皮をするときは
体が痛いのかと聞いた
ナギはヤワを見てから
いたいさ、つぶやいて
また舟頭をみた
ましろい霧の中
ただぼんやりと
明るくまあるく
前方に光る
あれは、アシバラ
魔物
僕らを見ている
そういったら
ヤワは笑った
ナギはなぜわらう、といったけど
ヤワは答えなかった
ただ、目をつぶって
横になった
ナギはしばらくしてから
話を続ける
舟はすすむ
……んでいたことを
わかった
君と手をからめたら
君は少しおどろいて
笑った
ぽ と 雨が降って
すぐにざんぶりになって
上に龍がはしゃいで泳いで
わらいごえがした
がらがら びしゃん
ねぇ きみ
僕は信じている
天と地はじつづき
螺旋階段
ただ
わからないものは
階段に気づかないんだ
そう いったら
きみはまた
微かに笑って
僕にくちづけて
泣くなよ と
言ったんだ
泣いていたんだ
気づかなかった
霧が晴れたら
月は見えて
天の川も見えて
舟はすすんで
きっとあちこちに
町明かりも
見えるさ
きみは言ったんだ
臆するなって
だから頷いた
ねぇきみは
笑ってくれたんだ
ナギははなし続け
ヤワは答えない
霧はすこし薄まり
前の方に見えていた
恐ろしいものが
海のなかに光る
優しい星たちの明かりだったことが
わずかにわかる
水はすきとおり
波もない
ただ、下の下まで
すきとおり
すきとおり
海底に
ひかり動く、魚が見える
……僕は
町に出ても
君を忘れない
そうぽつりと言ったら
ヤワはクスクス笑って
怯えるなよ、と
言った
優しいムシノネが
どこからか
響いている
ふと、しずかな霧の海に
ひかりと
朝日がさした
鳥が ひとこえ
たかく鳴いた
Series :
短編
Tag:
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2011-09-05
16:48:04
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うろこ逆立てて
走り流れた
ひずめに
ひっかかれた空
われて
雷がひかり ひかり
でも遠すぎて 音もなかったんだ
ナギが話す
ヤワはただ聞いている
霧の中、灰色
ぼんやりと明るい水の上
舟はすすむ
……龍のうろこが
いちまいいちまい
ひかり
魚のようだった
空半分、ひきさかれ
あつぼったい雲の隙間から
夕陽がさしていた
……僕は君と
ススキがはえた
茶色い草原にいた
それで空を見ていた
夕陽をみた時
僕の胸に
亀裂のように
はっきりした
まあかい痛みがはいり
それでようやく
ここが
現実ではないことが
わかった
ヤワがおきあがって
蛇も、脱皮をするときは
体が痛いのかと聞いた
ナギはヤワを見てから
いたいさ、つぶやいて
また舟頭をみた
ましろい霧の中
ただぼんやりと
明るくまあるく
前方に光る
あれは、アシバラ
魔物
僕らを見ている
そういったら
ヤワは笑った
ナギはなぜわらう、といったけど
ヤワは答えなかった
ただ、目をつぶって
横になった
ナギはしばらくしてから
話を続ける
舟はすすむ
……んでいたことを
わかった
君と手をからめたら
君は少しおどろいて
笑った
ぽ と 雨が降って
すぐにざんぶりになって
上に龍がはしゃいで泳いで
わらいごえがした
がらがら びしゃん
ねぇ きみ
僕は信じている
天と地はじつづき
螺旋階段
ただ
わからないものは
階段に気づかないんだ
そう いったら
きみはまた
微かに笑って
僕にくちづけて
泣くなよ と
言ったんだ
泣いていたんだ
気づかなかった
霧が晴れたら
月は見えて
天の川も見えて
舟はすすんで
きっとあちこちに
町明かりも
見えるさ
きみは言ったんだ
臆するなって
だから頷いた
ねぇきみは
笑ってくれたんだ
ナギははなし続け
ヤワは答えない
霧はすこし薄まり
前の方に見えていた
恐ろしいものが
海のなかに光る
優しい星たちの明かりだったことが
わずかにわかる
水はすきとおり
波もない
ただ、下の下まで
すきとおり
すきとおり
海底に
ひかり動く、魚が見える
……僕は
町に出ても
君を忘れない
そうぽつりと言ったら
ヤワはクスクス笑って
怯えるなよ、と
言った
優しいムシノネが
どこからか
響いている
ふと、しずかな霧の海に
ひかりと
朝日がさした
鳥が ひとこえ
たかく鳴いた