泰魚

ぼおっとした海に
はんかけの月が
ひっかかて
落ちかけている

うすい青い雲が
空のはしからはしまで流れていた

私たちは大きな白い魚の背中に乗り
その銀にひかり
月明かりに反射する
しきつめられた鱗のひとつにすわって
話していた

ーー それで
わたしに、
あの人は
いうんです

ーー そう
わたしの善人面が
いやだったのでしょう

ーー わたしの
みにくさをみぬいて
ほら、みろ
人はみにくいと
さわぎたかったようです

ーー まるで
鬼の首を
とったようでした

ーー いったい
いくらつむいでも
とどかない
おまえの理想とする
善人など
いない

黒い黒い空の
すきとおって薄くなったところが
あおくなって
ちいさなたくさんの星が
ちりんちりちりと
瞬いていた

月のひかりをすって
まるで吐息のように
ひら ひか ひかと
ひかりきらめいていた

わたしはふとつぶやいた

ーー わたしが
あたまで考えてはなすと
すぐ、わかるらしい
それで すぐ
こいつはこう
かんがえている
と みぬかれて
笑われる

ーー くやしいか

わらい言うから
いいえ、
だまさずにすむから
ありがたいです

そういった

月はしずかにながれ
星はたくさん光り
遠い空には
ずっと、
くらい深い
ふしぎな歌が
なりひびいている

ろおおり ううう
ろおおおり ううう
あああ おおおおろおおお

白銀の泰魚は
鱗を、まるでうれしそうに
月明かりに
てらてら光らせて
そのまま
ぐねりながら
静かに進んでいる

ーー さんぞうほうしの歌
あれ、あのものがたり
一人の人間の
精神世界の冒険だと
おぼえたら たのしい

ーー 理知で制御できない
岩したに隠していた
大ざる暴れざる
金のわで制御して
おともにして
つれていく

さんぞうとゴクウは
まったく
同じ人として
かかれている

ーー とちゅうで
鬼に出会って
つぼもって
名前聞かれて
返事をすると
すわれてしまう

ーー あ、赤い花
なっているな

ふと、横を見たら
椿のような
そうでないような
まっかな花が
金色の月に照らされて
てらてらひかっていた

わたしは
うたった

なをもてない魂のまま
からだをもって生まれた

なのないところから
うまれる心が
私の魂

な、は
こだわり

人から見た自分のな
世間からみた私の姿

世間に見せたい
自分のみえかた

さんぞうが
よばれ
すわれそうになってしまった
名前は
なんだったのだろう

その座席に座るために
つくりあげた
欲する自分の
外側の名前は
なんだったのだろう

ーー おまえはなんだろうな

そう笑った
だから、わたしは
ただ前を見たまま
いった

ーー にんげん

海に生えていた
赤と緑の花の木が
そろそると
流れていく

やわいやわい
だいだいの実
やわいやわい
金色の花

月明かりの下
わたしたちの
象牙の船は進む

ーー わたしは
なまえのないところから
生きておりますでしょうか

ーー わたしは
欲ではなく
愛によりそい
欲のおもいをきかず
愛のおもいを
聞いていきたい

かれは、ふと
笑った

ーー そろそろいこうか

わたしは、わらった
2011-09-06 16:48:40