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2011
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つきあかり
まつの住んでいる町は
少し広くして、少し狭い
おいしいグザイを売る店まで
行くのに30分はかかる
だけど歩けば、
必要なものはたやすく、
その上少し安くそろう
そんな風な町だった
:
甘くておいしいレモンが切れたので
グザイを買いに歩き始めたら
途中で金色の玉を
何度か青くうすい空になげて
ゆうゆう遊んでいる
ソバにであった
ソバは買い物かごを背負う松に
「あ、まち?」といって
勝手についてきた
:
おひさまはすこし熱めにとろんとしていて
ソバは好き勝手な話をしている
おれは、すぐ
何もかもを忘れてしまうけれど。
そう、いう。
お前が俺の庭のバラ
おったことにされて
おわれたじゃないか
あれ、おれが犯人なんだ
ごめんな
うん、と
松は言う
うん、謝るの、3回目だね
:
ソバが上着のぽけっとから
シャボン玉の容器を取り出した
あかい、ちっぽけな容器
ゆっくり歩きながらふこうとして
無理だったらしい、とまり、とまり
松のうしろから
シャボン玉を ふう、ふう と
ふいて飛ばして
また早足にかけて松に追いつく
青い空は
まるで海に沈むように
ゆっくり、うすいピンクにのみこまれ、
これから、赤、紫、
群青にかわっていくんだろうと
松はどきどきした
ピンクとブルーのさかいめで
はやあがりの白い月がぷかぷか
気持ちがよさそうに浮かんでいた
もう雲は、ずいぶん細かい
「秋になると
夏にあがったおいしい雲を
はむしがはむしはむしと
食べていってしまうのさ」
松の目線をおったソバが面白そうにいう
「はむしはむし」
松は、ふふ、と笑った
こんなに美しいのに
はやあしに
人々が生きすぎる町の上で
空は置き去りにされていた
だから、松は何かさびしかった
:
道の途中で
手紙を拾った
はがきだから
つい、読んでしまった
---
わたしが ほしい のは
すべての ひとが
こころ みたされて
ゆたかな せかい
いま こころ
ゆたか ですか
---
松は、ふふ、と笑った
ソバがどうしたの、というから
なにか恋文だよ
そう答えておいた
:
レモンを買って帰る途中
空を見上げたら
もう群青色で、
そういう深い色の中に
美しく輝く金色の星が見えた
ソバが小さく、おお、と叫んで
松はもう一度、ふふ、と
笑った
Series :
短編
Tag:
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2011-10-01
23:34:28
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少し広くして、少し狭い
おいしいグザイを売る店まで
行くのに30分はかかる
だけど歩けば、
必要なものはたやすく、
その上少し安くそろう
そんな風な町だった
:
甘くておいしいレモンが切れたので
グザイを買いに歩き始めたら
途中で金色の玉を
何度か青くうすい空になげて
ゆうゆう遊んでいる
ソバにであった
ソバは買い物かごを背負う松に
「あ、まち?」といって
勝手についてきた
:
おひさまはすこし熱めにとろんとしていて
ソバは好き勝手な話をしている
おれは、すぐ
何もかもを忘れてしまうけれど。
そう、いう。
お前が俺の庭のバラ
おったことにされて
おわれたじゃないか
あれ、おれが犯人なんだ
ごめんな
うん、と
松は言う
うん、謝るの、3回目だね
:
ソバが上着のぽけっとから
シャボン玉の容器を取り出した
あかい、ちっぽけな容器
ゆっくり歩きながらふこうとして
無理だったらしい、とまり、とまり
松のうしろから
シャボン玉を ふう、ふう と
ふいて飛ばして
また早足にかけて松に追いつく
青い空は
まるで海に沈むように
ゆっくり、うすいピンクにのみこまれ、
これから、赤、紫、
群青にかわっていくんだろうと
松はどきどきした
ピンクとブルーのさかいめで
はやあがりの白い月がぷかぷか
気持ちがよさそうに浮かんでいた
もう雲は、ずいぶん細かい
「秋になると
夏にあがったおいしい雲を
はむしがはむしはむしと
食べていってしまうのさ」
松の目線をおったソバが面白そうにいう
「はむしはむし」
松は、ふふ、と笑った
こんなに美しいのに
はやあしに
人々が生きすぎる町の上で
空は置き去りにされていた
だから、松は何かさびしかった
:
道の途中で
手紙を拾った
はがきだから
つい、読んでしまった
---
わたしが ほしい のは
すべての ひとが
こころ みたされて
ゆたかな せかい
いま こころ
ゆたか ですか
---
松は、ふふ、と笑った
ソバがどうしたの、というから
なにか恋文だよ
そう答えておいた
:
レモンを買って帰る途中
空を見上げたら
もう群青色で、
そういう深い色の中に
美しく輝く金色の星が見えた
ソバが小さく、おお、と叫んで
松はもう一度、ふふ、と
笑った