へのへのもへじ

あおいあおい空に
たくさんの、細かい星が
きら きら
きらきら ひかりかがやいて

いまは なにをいっても
私の言葉は 嘘にしか
見えないと 思った

だから唇を ぬいつけた
どうとでもなることは
わかっていた

冬の森の中
温泉に入っていた
森の上に
ただ、上のほうに
木々の隙間から
まっさおな
ふかい あおい 黒い空が見えた
細かい星の中
てっぺんに、月があって
しろくきらきらとひかっていた
透きとおった
とてもうつくしい宝石のようで
わたしは あれがあれば
たいていなことは
なんとでもないと
思えた

月があれば どうとでもなる
月が昇る限り
私は進む
なんて 安心なんだろう

別に意地なんか
なかったけど
お湯にはいって
満月をみあげ
うたっていたら
ふと、そばにいた小鳥が
大丈夫、
なんていうから
つまらない意地なの
はりたいの と
答えてしまった

あたたかな
柔らかい風が
ざあざあと
ふきながれ
しめった木々から
とうめいで
ゆるやかなしずくが
ぱたんぱたんと
たくさん、おちてきた

私のかおにも、ことりにも
すべてに ぱたぱた
ぱたぱた
真珠のような水玉が落ちる

雨のようだと思った

 つめたい と

 鳥が騒いだから

 そう、と いったら

 つめたい と

 はしゃいでいた

お湯は、
ひきつめられた
白い石、黒い石、きらきら光る石の
その隙間から
ひたすら、こんこんとわいている
白くあたたかなお湯

月明かりを
すべて 無駄にしないよう
たくさん すいこんだ
そんなお湯だと思った
月の 光たまり

土ぐれのじめんに
ひとさしゆびで
へのへのもへじを
かいたら
小鳥が わらった

 へんなかおだね

そういって 口の「へ」を
逆にして
このほうがいい なんて
いうんだ

ことば なんかで
伝わらないから
やるしか つたわらないから

ことば を
こえた
ものなら
伝わるね

つまらない 意地です
わからなくて
大丈夫

笑顔を 描いて笑おう

わたし 人の中で
大嫌いな人の中で
取り残されたときが
あった

だれも
好きになれなかったから
だれからも
好かれず
わたしからも ひとからも
信頼をなくした

そのときも
人間が嫌いになれなかった

それだけなのです

空を見上げたら
満月が うたっていた
小さな 愛の歌

 忘れてください それでもかまわない

 またいつか 私は あなたと 出会う

 いつか 私は 貴方と 出会う

 また わかれ また 出会い また わかれ

そう歌う
だから 私も歌ったんだ
勝手な わたしの歌を

ハミング 鳥がまた 勝手な歌を
かさねたんだ

 ベイビー ベイビー 私のことは 私に任せて

 ねむるのが こわいあなた

 ベイビー 眠りの中に あなたの痛みが

 忍び込まないよう

 私は 眠りを守ろう

 それしか できないから

へのへのもへじ へを 逆にして 笑おう

 いつか 私たちは 出会う いつでも

 いつでも


温泉の湯気は
たくさん、たちのぼり
あたりを白くぼやかして
ただ、しずかに
風の中に 消えていく

あの高い空まで 届くだろう
きっと 月も
温泉のあたたかさを
わかっているから
空から あら あったかいなんて
おもっているんだ きっとさ

 雨で消えても へのへのもへじ へを逆にして また 笑おう

地球は丸いね 知らないけれどね
月は 丸い

しらないけれど まるい
2011-12-10 13:38:05