ばんば

まっぐろい夜の中
まっぐろいなべ底みたいな空に
ちらちらと
ゆきがふり
星もない

ただ真ん中あたりに
月がかかり
したのほうに したのほうに
雪に、ひかり

ばんばの家は
はじっこにあって
きょうは、子供がきて
ばんばがつくった
茶菓子くいながら
ただ、だまりこんでる

ばんばは
茶、いれながら
子はあまいものすきだ
だけどばんばは
あまいもの、わからん
だども、子供は
あまいものがすきだ

そう思い、
このあと、米をいって
みそと砂糖であじつけた
米せんべいでも
くわせてやるか
そう、思っている

子供が、ゆき、と
ぽつっと
もらす
ずっと話さん子供だった
ばんばは
はなしなんざどうでもよくて
子供が、ふくれっつらしとるのが
気になっていた

こどもはわからん

ばんばは思う
わかるには、年をとりすぎた
あとで
こめせんべい、やるな
まだ、たべるもの
ほしいか
そういっても
子供は、なにもこたえない
ただ天窓からみえる
ゆきを、見上げている

なにを、堪えきれなかったのか
こどもの目が
うるっとして
きゅうに、ぽっと
なみだが、おちる
ばんばは驚いたが
しらんふりをして
子供も、すぐに手で顔をぬぐい
ずずっと、はなをすすって
なにもなかったように
今日は、さむいという
それでばんばも
そうさの、
あとで、まき、つけたそう
それで、また茶を飲む

明日には、雪
つもるだろう
そしたらお前
遊んでくるがいい
そういうと
うん、と
子供はすこし
わくわくしたように
いう

こどもが
ねてしまったあとで
ばんばは
子供の寝顔見て
それで
なにか、祈るような気持ちになる
なにがあったか
知らんけれど
ばんばも
ちからになりたい と 思い
それで、なにか
ばんばも
でも なみだは

なみだは ひとりのもんだった

でも となりに ばんばにも
 じいじや おっかつあんや
 おとっつあんがいた

だから ばんばも
このこの 隣にいてやろうと思う
思うより ずっと深く おもう


朝になると
まったく雪は積もっていて
さっきから
こどもは
さみぃいさみいいと
叫びながら
こごえながら
雪だまをたくさんつくってる

ばんばは
なるたけ
子供があったかいように
焚きをうんと燃やしながら
窓をあけて
子供を見ている

ふ、と、
子供が駆け寄り
手のひらの中の雪だまを見せる
それは
二つの耳、
目をふたつつけて
うさぎになっている

これ、ばんばのうさぎな
これ、ばんば
ばんばはうさぎでいいな?

そういう

ばんばは
なにかくすぐったくなって
ずっと、ずっと
いいたくて
たまらなかったことを
ちょっといってみる

 ありがとうな

そういうと
子供が え? と
顔を見上げる

 ありがとうな

そう、くりかえすと
子供が、照れたように右を見て
それから、お小遣いせいです
そういう

ばんばは、わらって
財布から500円もとりだし
くれてやる
こどもは
ちえ、すくねー
そういいながら
また、雪だるまを
つくりはじめる

 お前の人生は
 わたしでは わからない

 だけど この長い ながい
 広い世界で
 めぐりあえた おまえは
 いとしい
 
 ありがとう なんて
 うまくいえないが
 
 あたたかに 愛せるお前が
 ずっと こらえながら
 生きるつらさに たえて
 それでも 生きてくれた おまえが
 
 いとしい
 
 ありがとう

ばんばは思う
きょうの、あまいものは
何にしてやろうかと
それから、考える
2012-01-10 19:34:50