花の星
>>
小説
>
2012
> 桃色の鳥
桃色の鳥
ももいろの小さな鳥は
すこし黄みがかったそのくちばしで
おばあさんの背中を叩く
小さなくちばしは
すこし軽くて
おばあさんの肩で
たしたしと、音を鳴らす
おばあさんの背中は
とおに曲がってしまって
節々が痛いんだという
叩き終わると
おばあさんが、ふう、と息をはいて
ああ、らくになったよ
ありがとう、という
それから
机の上に、
赤い紙きれをしいて
ちんまりとおいてあった10円玉と
さとうきびのお菓子をくれる
桃色の鳥はサトウキビのお菓子を
ひとくちかんで口で溶かしながら
10円玉をしげしげながめる
ちゃいろの、さびた、丸い
ちいさな円盤
よく分からないけれど
おばあさんがくれるので
よいものなんだろう
ももいろの羽毛にしまいこんで考える
ちゃいろの円盤
このいちまいは
どこに飾りつけようか
寝床、木の上の良い香りのする寝床
みがいてみがいてかざりつけた10円玉は
もう何枚にもなる
もうひとくち
サトウキビのお菓子をかんだら
外に、しずかに
沢山の白い雪が降ってきた
ああ、ひえるね
おばあさんがつぶやいて
きしきしりならしながら障子をしめて
ストーブをいれる
ぼっと音を立てて
ストーブの中に赤いものがともる
おまえ、もう夜も遅いし
雪もあるから
木にはかえりづらいだろう
よかったら
いっしょに過ごそう
それはなんだか
いいのかわるいのかわからなくて
桃色の鳥は首をかしげた
おばあさんはわらって
遠慮することないよ、
どうするかい、と
聞いてくれた
おばあさんの話をすこし聞いていたら
台所にある柱時計が7回、大きな音を鳴らした
おばあさんが
しわくちゃな顔で
おおきなおとだねぇ、とつぶやいてから
よいしょ、と立ち上がる
なんのものもないけどね
そういいながら
汁物とご飯とつけものと
お魚を用意してくれた
いただきますといって
おばあさんが頭を下げる
鳥も小さな羽を合わせ
頭を下げた
時計が、かち、かち、と音を立てて
夜がどんどん深くなる
いつもなら木の上
お月様がいないのを寂しく思うころあい
おばあさんが
むすめのふとんがあったはずだよ
東京にいるんだけどね
たまに帰ってくるから
おいてあるんだ
そういって、確かここら辺に、と
おしれをしゃっとあけて
すこししめったにおいのする布団を
うんうんと、ひっぱりだそうとする
ううん、
だいじょうぶかな
すこしつめたいね
私の毛布と交換しようね
いつも寝ているから
あたたかいはずだよ
鳥はやっぱり首をかしげた
それからちいちくと鳴いた
鳥はちいさいので、
ざぶとんでいいです
そう伝えるために
ざぶとんをふたつかさねて寝て見せた
おばあさんが
ああ、そうかい
すこし驚いたようにいう
そしてまた、
ああ、そうかい
わらっていった
夜、ふっと目が覚めて
しずかな暗い中に天井がみえた
かち、かちと
時計の音がする
おばあさんのすうすういう寝息が聞こえる
もらった10円玉をそっと羽毛から出して
天井にかざしてみたけれど
暗くてよく見えない
あしたは
これをたくさんみがいてみよう
よく磨けると
とてもぴかぴかして
きれいなんだ
たくさんみがけたら
おつきさまにかざすんだ
目をとじたら
くらいなかで
かち、かち、と
時計の音がひびいていた
Series :
中編
Tag:
... 前頁「氷」へ
... 次頁「まぼろし」へ
2012-02-10
11:25:46
花の星
>>
小説
>
2012
> 桃色の鳥
Copyright © by mogiha(
https://ahito.com/
) All Rights Reserved.
すこし黄みがかったそのくちばしで
おばあさんの背中を叩く
小さなくちばしは
すこし軽くて
おばあさんの肩で
たしたしと、音を鳴らす
おばあさんの背中は
とおに曲がってしまって
節々が痛いんだという
叩き終わると
おばあさんが、ふう、と息をはいて
ああ、らくになったよ
ありがとう、という
それから
机の上に、
赤い紙きれをしいて
ちんまりとおいてあった10円玉と
さとうきびのお菓子をくれる
桃色の鳥はサトウキビのお菓子を
ひとくちかんで口で溶かしながら
10円玉をしげしげながめる
ちゃいろの、さびた、丸い
ちいさな円盤
よく分からないけれど
おばあさんがくれるので
よいものなんだろう
ももいろの羽毛にしまいこんで考える
ちゃいろの円盤
このいちまいは
どこに飾りつけようか
寝床、木の上の良い香りのする寝床
みがいてみがいてかざりつけた10円玉は
もう何枚にもなる
もうひとくち
サトウキビのお菓子をかんだら
外に、しずかに
沢山の白い雪が降ってきた
ああ、ひえるね
おばあさんがつぶやいて
きしきしりならしながら障子をしめて
ストーブをいれる
ぼっと音を立てて
ストーブの中に赤いものがともる
おまえ、もう夜も遅いし
雪もあるから
木にはかえりづらいだろう
よかったら
いっしょに過ごそう
それはなんだか
いいのかわるいのかわからなくて
桃色の鳥は首をかしげた
おばあさんはわらって
遠慮することないよ、
どうするかい、と
聞いてくれた
おばあさんの話をすこし聞いていたら
台所にある柱時計が7回、大きな音を鳴らした
おばあさんが
しわくちゃな顔で
おおきなおとだねぇ、とつぶやいてから
よいしょ、と立ち上がる
なんのものもないけどね
そういいながら
汁物とご飯とつけものと
お魚を用意してくれた
いただきますといって
おばあさんが頭を下げる
鳥も小さな羽を合わせ
頭を下げた
時計が、かち、かち、と音を立てて
夜がどんどん深くなる
いつもなら木の上
お月様がいないのを寂しく思うころあい
おばあさんが
むすめのふとんがあったはずだよ
東京にいるんだけどね
たまに帰ってくるから
おいてあるんだ
そういって、確かここら辺に、と
おしれをしゃっとあけて
すこししめったにおいのする布団を
うんうんと、ひっぱりだそうとする
ううん、
だいじょうぶかな
すこしつめたいね
私の毛布と交換しようね
いつも寝ているから
あたたかいはずだよ
鳥はやっぱり首をかしげた
それからちいちくと鳴いた
鳥はちいさいので、
ざぶとんでいいです
そう伝えるために
ざぶとんをふたつかさねて寝て見せた
おばあさんが
ああ、そうかい
すこし驚いたようにいう
そしてまた、
ああ、そうかい
わらっていった
夜、ふっと目が覚めて
しずかな暗い中に天井がみえた
かち、かちと
時計の音がする
おばあさんのすうすういう寝息が聞こえる
もらった10円玉をそっと羽毛から出して
天井にかざしてみたけれど
暗くてよく見えない
あしたは
これをたくさんみがいてみよう
よく磨けると
とてもぴかぴかして
きれいなんだ
たくさんみがけたら
おつきさまにかざすんだ
目をとじたら
くらいなかで
かち、かち、と
時計の音がひびいていた