トオミ

牡丹を見ると
あまりに深い色をしながら
たくさん、花がなっているので
だれかに花束をもらった気になる
とても たくさんの
綺麗な花束が
ふいに、目の前に現れる



トオミが泣きながら「ねええねえ」という
舌足らずのしなだれかかるような声を前に
トオミの頼んだアイスクレープが
ゆっくりとけかけている

ねえねえ
いままでさいていだった 男ってどいつか
おぼえてるぅ
わたし、わたしねえ
喫茶店 入って でるときに
「あれ、おれ、うんこながしたっけ」っていったおとこ

うんこながしたっけ、それで
あいつ、ながしにいったの

あいつ

それで、トオミがぼろ、ぼろ、ぼろと
涙をこぼす
わたしのどこが
わるいのかなぁ



トオミの男はいつも
トオミがやれるから好きみたいで
いってしまえば
トオミのおっぱいがすきだったらしい

それで、私は男を見る目がない、と
トオミが言うから
男どころか何も見る目がない、といいたくなる

似合わないブランド物のバックをもって
無理してかって、お金けずって
可愛い可愛いあなたになるため
流行の色もがんばってしらべて
上目遣いとか、男好きする微笑方とか

女ってえ、私に嫉妬するからぁ、きらい とか

それで
あんたは いつだって
嫌いな男をえらんでしまって
 やっぱり、男って、嫌なやつばっかりなんだって
 いっている

愛されたいなぁ
愛されたいなぁ



トオミを見ていると
恥じの意識が、反転しているように思う

トオミは、自分が
人から笑われたり
馬鹿にされたりするのが
恥ずかしいと思うらしい

でも、トオミもよく
人を笑ったり馬鹿にしたり見下したり
陰口を言ったりしている

そのくせ
自分が嫌われていたり
陰口をいわれていないかを
常に気にしている



この間トオミは
とても綺麗な、椿の下で
「きれい」といって
無言で見ていた

私は、そういう彼女が愛しく思ったので
そのままにしておいたら
トオミがいつも言う「お高くとまった女」が目の前から来て
トオミは私に「何ぃ花なんか見とれてんのぉ、はやくいこうよお」と
とてもひきつった、笑い顔で――のら犬に似た――私に言った

トオミは、3番目の男にもらった
ちいさい、それでも綺麗なポーチを
とても大事にしていたけれど
それを「ともだち」に笑われたとき、
会社の薄汚いトイレに捨てた
そのあと、男と別れた

トオミは、
「誰かが自分の彼氏を笑うと、
彼氏がだめにおもえて
そうすると
なんとなく別れてしまう」と言う

最近、トオミと付き合う男は
トオミの体にしか
興味がない



あなたの不幸を願う人の笑顔に
なぜ、あなたは
あなたをあわせていくんだろう

嘲笑は
あなたがもっとも
気にしなくていいことなのに

人を あざ笑う人の
見下したがる人の
馬鹿にしたがる人の
どれほど 人の真実が
見えていないのか
あなたは知らない

なぜ あなたは
痛みでない 痛みに
恥でない 恥に
おびえるんだろう

人のあざける目をおそれ
あなたはひるむ



あんたが見る目がないのは
自分でしょう、と、言ったら
一瞬びっくりした顔して
たしかにぃそうかも、って
ぼろぼろぼろぼろ
ヒステリーみたいに
ないて ないて 笑い出した

なにがほしいか
なにがいらないか
わかってないから

なんで、傷ついているのかさえ
なんで、いらだっているのかさえ
わかってなくて

あんたって あんたがほしいのに
人の目からみたあんたばっかり
えらんできたから

あなたの気持ちに
さっさと思い当たればいい



どいつもこいつも
ばかばっかりで
腹が立つ

たおれかかって
ぐでぐで
鼻水も、よだれもながして
くだぐだする
トオミがいやで
私は怒りながら
横にかたむく彼女の腕の下に
よいしょ、と
腕をいれなおした

どいつも こいつも 馬鹿ばっかりで
腹が立つ

怒る理由も 傷つく理由も
絶対自分で
みたくないから
行き当たらない なんだか
苦しいものを抱えて
泣いてる あんたの面が嫌い

それで かみさま
トオミの馬鹿を
治してくださいと 頼んだけれど

トオミ あんた

あなたが 気がつかなきゃ
きっと 駄目なんだろう

あんたの苦しみは
あんたが見えなきゃ
治ったりしない。
2011-04-09 18:29:08